苦楽歳時記
vol178 ワイン
2015-12-17
時は一九七〇年代の後半、ある若い二人が新婚旅行で訪れたフランス。夕刻に、旅行社が予約を入れていた三ツ星レストランに向かった。
メニューを見てもわからないので、これもまた、旅行社が手配したコース料理が順番にサーブされることになっている。
しばらくしてソムリエが現れた。二人が声をそろえて「コーク」と告げたものだから、ソムリエは両腕を左右に大きく広げて、「オー ノン!」と叫んだ。
フランス人は葡萄酒(ぶどうしゅ)を称揚する。「葡萄酒なき食事は太陽なき一日のごとし」、「葡萄酒は神の飲み物、水は動物の飲み物」。
ブリア・サヴァランは『美味礼讃』で、葡萄酒について語っている。「すべての飲み物の中で、最も愛すべき葡萄酒、これは葡萄を植えたノアの賜物であるのか、それとも葡萄の実を絞ったというバッカスの賜物か・・・ 」。
ギリシア神話ではワインの神様として仰がれたディオニュソス(バッカス)が、食いしん坊のシレノスからワインの作り方を学んで各地に広めた。旧約聖書の『創世記』第九章には、箱舟から出たノアは農夫となり、葡萄畑を作り始めたとの記述がある。
さて、イエス・キリストによる最初の奇跡は、新約聖書の『ヨハネによる福音書』第二章に記されている。ガリラヤのカナという所で婚礼があり、祝宴の途中で葡萄酒が尽きてしまった。イエスは六つ置いてあった水がめに、水を入れるように命じた。それを全て飛び切り極上の葡萄酒に変えたのである。
世界最古の酒、ワインが日本へ上陸したのは一五四九年(天文十八年)、宣教師のフランシスコ・ザビエル来日のとき。織田信長は大のワイン党であったという。
宗教改革者のマルチン・ルター曰く、「ワインと女と歌とを愛さぬやつは、生涯盆暗で終わる者である」。
最後に情報を一つ、十ドル前後の安価なワインのコルクを抜いて、再度コルクをしめて強く振る。これだけで、本来の香りと味わいが楽しめる。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

