苦楽歳時記
vol173 LAの秋深し
2015-11-12
今、キャノンボール・アダレイとマイルス・デイヴィスの、「枯れ葉」が書斎に流れている。
南カリフォルニアは四季の風物詩に乏しいが、それでも夏時間が終わるあたりになるとハロウィンがやってくる。収穫の秋の暮れなれば感謝祭がはじまる。
昨年の秋、隣のヒスパニック系家族に、塩麹をひとつ届けていた。最初にテキーラとリキュールをかけて、ターキーを蒸し焼きにする。次にオーブンを使わないで、チヤブロイラーで塩麹をぬってターキーを焼いたという。
食味の方は、うるおいのある風味と食感がこうばしい。肉汁の旨味がゆるりと口の中にひろがり、面様がにんまりとほころんでいた。
「天高く馬肥ゆる秋」というけれど、LAでは馬肉が手に入りにくい。桜肉、けとばしと言われる馬肉が妙味になる季節は、桜の花が咲くころである。冬の間に脂肪をたくわえて、脂ののった馬肉が味わえる。この春陽に馬刺しは桜色にかがよう。
実りの秋になると、日系スーパーマーケットで「巨峰」が並ぶ。近隣に住むフランス系高齢者の女性に「巨峰」を届けたら、曰く、「ジューシーでエレガントな甘さ」。
昔から「匂い松茸味しめじ」と言うが、昨今の松茸は豊かで自然な香りがただよわない。スーパーなどで販売されている松茸は、人工的エッセンスの匂いがする。また、シメジは風情を伴う滋味が皆無。廉価なエノキ茸の方にはコクがある。
LAで大きな秋を享受するには、「Angeles National Forest」(エンジエルス国立森林公園)に出向くとよい。その東に位置するソルジャー・クリークの滝。アズサからハイウェイ39を北上、トレイルの入り口から滝まで歩いて三十分ていどでたどり着く。
トレイル周辺にはシダが生え、カエデの立木(りゅうぼく)があり、紅葉した落ち葉をふみしめて歩むと、日本の晩秋を彷彿とさせる。
書斎には、バディ・デフランコ(クラリネット)の「ニューヨークの秋」が流れていた。秋の夜長にメロウなジャズを聴くのもよし。
はて、秋深し……
今宵は読書にふけるとする。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

