苦楽歳時記
vol170 茄子(なす)
2015-10-22
戦後の始めあたりまでは、日本の女性は漬け物を折節につけていた。漬け物屋で売られている漬け物を買い込んでくる主婦は、所帯持ちが悪いと揶揄(やゆ)された。
僕が子供の頃、母は糠床を毎朝かきまぜていた。食卓に茄子の糠漬けが並ぶと、母は「早く召し上がれ」と、いつも言う。茄子の色が変色して焦げ茶色になるからだ。
東日本では茄子(なす)呼ばれているが、僕が育った大阪(西日本)では茄子(なすび)と呼ばれていた。
時は流れて、母は当地(LA)でも茄子の糠漬けをつけこんでいた。母は食膳に茄子の糠漬けを盛りつけると、やはり「早く召し上がれ」と促した。「アク抜きをしましたか」と僕が問うと、母は「漬ける前に茄子を塩でもんだ」という。
糠床に漬け込む前に、「茄子を包み込むようにして二十分くらい粗塩でまぶすと、時間が経過しても鮮やかな紫色を保つ」と僕が告げた。
母は、「負うた子に教えられ・・・ 」と呟きながら、七十三歳にして問題が解決したと、完爾(かんじ)として微笑んだ。現在、奈良に住んでいる母は九十三歳で健在である。
「秋茄子は嫁に食わすな」とは、美味しい秋茄子を嫁に食べさせるのはもったいないという意味。また一説には、茄子は身体を冷やす。あるいは種が少ないので子供ができないからと、嫁をいたわる気持ち。「秋カマス」、「秋サバ」、「五月わらび」も嫁に食わすなといわれている。
鎌倉時代の和歌集『夫木和歌抄』には、「秋なすび わささの粕につきまぜて よめにはくれじ 棚におくとも」とあり、「秋茄子は嫁に食わすな」の語源なっている。
母の出身地、高知県は茄子の生産量が日本一。僕は幼い頃から土佐の夏料理、「茄子のうるか煮」を食べて育った。「うるか」とは鮎(あゆ)の内臓の塩から。
最近の研究によると、茄子にはガン抑制、血圧降下、コレステロール値を抑える。動脈硬化を防ぐ、肝機能を高めるなど、生活習慣病を予防するらしい。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

