苦楽歳時記
vol162 ゲーテ
2015-08-27
本日、八月二十八日はヨハン・ヴォルフガング・ゲーテの生誕日。ゲーテは終生恋をしては詩を書き、片恋の度にその傷心を文学に昇華させた。
作家の吉行淳之介は、純真無垢な乙女の心を侮る身勝手なゲーテの振る舞いを強く批判した。ゲーテが二十一歳の頃に書いた『野ばら』の詩を読めば、ゲーテのエゴイズムがよくわかる。
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野辺に咲く/あかいばら/朝日のような美しさ/少年は見るなり駆けよって/うっとりと眺めておりました/あかい野ばら/野辺に咲くばら
「さあ 折るよあかい野ばら」/「刺してあげるわ わたしのことを忘れぬように ただ折られたりはしませんわ」/あかい野ばら/野辺に咲くばらでも少年は むごく折ってしまった/あかい野ばらを/ばらはふせいで 刺したけれども/嘆きも叫びもむだでした/やっぱり折れてしまった/あかい野ばら/野辺に咲く ああ あかいばら(小塩 節訳)
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少年であるゲーテは田舎に旅に出て、牧歌的佇まいに愛らしく生きるあかい野ばらこと、フリーデリーケに激しい愛恋の情をいだく。
どうしても好きで、好きでたまらなくなり、その想いを打ち明けるが、拒み続けるフリーデリーケを断じて自分のものにしたいので、無理やり彼女を街へ連れて帰る。
ここから先は詩に書かれていないが、吉行が述べるゲーテの我意は、田舎ではあんなにも美しく光り輝いていた乙女も、街での生活には馴染めず不粋で、市民貴族の社交界では足手まといになるばかり。無情にもゲーテはフリーデリーケをすててしまう。その後、フリーデリーケは、一生結婚をせずに幸せになれなかった。
それから二年後に、ゲーテは婚約者のいるシャルロッテ・ブフ(愛称ロッテ)と知り合い激しい恋に落ちるが、実らぬ恋愛を『若きウェルテルの悩み』の中で、死ぬことによって愛を永遠化にするのである。
この小説に感化された若者たちの間では、多くの自殺者が出たが、ゲーテがこの小説を書くことによって、自らの煩悶からぬけだしたのであった。
ゲーテの恋の遍歴は尽きることはないが、七十三歳のときに十七歳の少女ウルリーケに恋をして求婚。失恋の絶望感から『マリーエンバートの悲歌』を結実させた。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

