苦楽歳時記
vol116 秋刀魚(さんま)
2014-10-02
「しみじみと秋刀魚は無事の味すなり」(水野吐紫)
夏の暮れから晩秋にかけて秋刀魚の旬である。北海道から本州沿いに南下する時期に、十月に房総沖で獲れた脂ののった太った秋刀魚は最上だ。
味にうるさい者は八月の末に、北海道沖で獲れた少し大きめの若秋刀魚がウマイと言うが、紀伊半島沖合まで下がってきた、産卵を終えた秋刀魚の味を賞賛する人たちもいる。
三重県熊野市は秋刀魚の漁獲量は日本一。名物「秋刀魚すし」は絶品。秋刀魚はデップリ太ったメスの方が美味しくて、尾の部分が黄色く光っているものが最良だ。
オスとメスの見分け方は、オスは下あごがオレンジ色、メスはオリーブ色をしている。滋養強壮効果があるので、江戸時代より「秋刀魚がでるとアンマが引っ込む」。庶民の間でしゃれ言葉が広まった。
新鮮な秋刀魚を内臓ごと塩焼きにして、大根おろしを添えて食する。単純な料理方法が一等に美味だ。できれば七輪で炭火焼きにして味わうと至福の境地。
さんま、さんま/さんま苦いかしょっぱいか。/そが上に熱き涙をしたたらせて/さんまを食ふはいずこの里のならひぞや(佐藤春夫『秋刀魚の歌』抜粋)
毎年秋になると、日本から届いた新鮮な秋刀魚を購入する。今年は北海道産の秋刀魚を見つけた。オス二尾三ドルとメス一尾七ドルがある。台湾産の冷凍秋刀魚は、脂ののりがいまひとつだが安価で意外とウマイ。
家庭で魚を焼く場合、フライパンを利用するとよい。まず、粗塩をフライパンで熱して、熱した粗塩を秋刀魚に振りかける。塩を熱することによって、秋刀魚にまんべんなく塩がかかる。秋刀魚が焼き上がったら、大根おろしとレモンを添える。
「サンマ焼くうしろで猫が正坐する」(若林政夫)
今宵、それぞれの秋の風物詩を思い浮かべながら、秋刀魚で一汁一菜。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

