苦楽歳時記
vol99 傘
2014-06-06
♪ あめあめ ふれふれ かあさんが じゃのめで おむかえ うれしいな……
娘が幼いころ一緒に歌った後で、「じゃのめって何?」娘から問われた。
僕が子供の時分でさえ、蛇の目は一般的ではなかった。それでも地方へ赴くと、蛇の目傘に似た番傘を見掛けることがあった。
六月十一日は入梅。当地、南カリフォルニアでは、四月ごろから雨は降らない。日本列島はこれから約一ヶ月の間、黒南風(くろはえ)の雨期を迎える。
山陰地方など、年間を通して降雨量の多い地域では、「弁当忘れても、傘忘れるな」と言われるほど、雨傘は日常生活に欠かせない。
英国紳士のシンボルは雨傘であるが、南カリフォルニアの人たちは雨傘には無頓着である。多少の雨が降っても、めったに傘をさして歩いたりはしない。
雨の多い国で育った日本人は雨が降ってくると、条件反射的に雨に濡れないようにしようとする。井上陽水の『傘がない』という曲の歌詞を読むと、急いで知人に会いに行かなければならないというのに、「♪ 問題は今日の雨、傘がない…… 」。よほど雨に濡れるのが難儀だと見える。
ジーン・ケリーは雨傘をたたんで、土砂降りの雨の中で愉快に歌って踊った。ハリウッド映画『雨に唄えば』は、憂鬱な雨を愉しく表現させるための手段として用いた。
傘のルーツをひもといてみると、雨傘よりも、日傘の方が最初に考案されていた。古代オリエントが発祥の地で、ローマ時代になってから雨傘が普及した。その後、十八世紀の中ごろになると、鋼鉄製のこうもり傘の原型が出来上がった。
ロサンゼルスで生活を続けていると、多少の雨如きでは傘の世話にはならなくなった。雨期になると、月形半平太ばりに「濡れて参ろう」ということになる。
日本では、六月十一日は『傘の日』。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

