後藤英彦のぶっちゃけ放題!
第274回 ピアニスト土肥明子さん
2014-05-14
ピアニスト土肥明子さんの「ラプソデイー・イン・ブルー」(ガーシュイン作曲)を聴きました。
ジャズとクラシックを融合させたこの曲は、ジャズバンド版、オーケストラ版、打楽器版と種々の様式で演奏されることでよく知られています。
この日の演奏は土肥さんのピアノに、パイプオルガン(奏者・マーク・デイッキー)が伴奏役で寄り添っていました。
彼女の演奏はガーシュイン一流のシテイーの孤独と喧騒を創出し、聴く者の胸に響きました。
ピアニストは親指から小指まで力強く均等に弾ける手を持っていなくてはなりません。
繊細で小さな指の日本人にはとても厳しい試練です。
とりわけか細い日本女性にとって、大曲と取り組むハンディはリスナーの想像を超えています。
この日の土肥さんは安定した演奏とともに洗練されたテクニックを披露していました。
どんなに練習しても完全無欠の演奏などほぼ不可能で、良い指と悪い指が一生付きまといます。
土肥さんの指はなめらかで、鍵盤上を縦横に走っていました。
後半のパッセージで中指を立てて弾く奏法は歯切れがよくて正確で、聴き惚れながら「その調子」と心のなかで叫んでいました。
ガーシュインの作品では「ラプソデイー・イン・ブルー」のほか「パリのアメリカ人」、オペラ「ポギーとベス」の劇中で歌われる「サンマータイム」がとりわけ人口に膾炙(かいしゃ)しています。
十二音技法で知られるシェーンベルクと仲がよく、テニスを楽しんだり肖像画を交換したりしていたそうです。
序にいえば、シェーンベルクは何も私を感動させませんが、彼がブラームス好き(私もそう)と知って何やら淡い親近感を覚えています。
とろりとろりと大阪弁でしゃべるいつもの土肥さんと違う土肥さんがそこにいたのです。
フィナーレの主旋律を謡う熱情のなかで、小柄な土肥さんの姿がとても大きく観えました。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

