後藤英彦のぶっちゃけ放題!
第268回 野口英世の母と南極隊員の妻
2014-04-02
野口シカさんの手紙ほど胸をうつものはありません。
息子の野口英世に宛てた手紙はたどたどしくて、判読ままならない文字で書かれています。
「いしょ(一生)のたのみでありまする。にしさむいてわ(は)おがみ、ひがしさむいてわ(は)おがみ、しております。きたさむいてわ(は)おがみおります。みなみさむいてわ(は)おがんでおりまする・・」
まか不思議な説得力。異国の息子を「出世」に導いた天つ神への合掌と、息子に会いたい「母」の思いが読む者の胸に切々と迫ってきます。
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飯沼信子さんの招待で彼女の講演会に行ってきました。
「日本女性異業種交換会」主催のその席で彼女はおシカさんの手紙を三回繰り返しました。
ツボを心得た飯沼さんの語りに、会場は水をうったように静まり返っていました。
文章は真情を伝えるもの、技巧でないことをこの手紙は教えてくれます。
次に「妻」の思い。
二○○八年元日、第一 次南極越冬隊昭和基地でのこと。隊員に家族から電報が届けられました。
各人の電報をみんなに披露することになりました。
電報が読まれるなか、嬌声、拍手、笑い。なごやかな雰囲気に包まれていました。
ある隊員の番になり、新婚の奥さんからの電報を読もうとしました。ところが隊員の声は声にならず、嗚咽に変わりました。
周囲は訃報でもあったのかとざわめきました。しかしそうではありませんでした。
電報にはひと言、「あなた」とだけ書いてあったのです。
あれもこれも文字にして伝えたい。しかし伝えることは尽きないし、電報のスペースにも限りがあるし・・。
あなたのことが心配で、病気になっていない?よく眠れてる?お食事は?洗濯は?お仕事は?昨夜あなたの夢をみたの。会いたいなぁ。
万感の思いが「あなた」に込められています。
世界一短いラブレター、実際にあった話です。
二つの話は人間の素晴らしさを伝えて余す所がありません。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

