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コラム

苦楽歳時記
vol82 人形   

2014-02-07

二十五年ほど前に、ウエストハリウッドのサンタモニカ大通りをドライブしている際、車が右に大きく傾いた。直ぐにパンクだと気がついた。

僕は車を右折させて住宅街に車を止めた。車から降りてタイヤの状態を調べているときに、背後から「大丈夫ですか」と声がかかった。こんなところに日本人が偶然いたのかと振り向くと、二十代半ばの黒人女性が佇んでいた。

この親切な黒人女性は、アパートが近所にあるのでトリプルAを呼んであげるというのである。パンクも直り、彼女はピンク色の名刺を僕の前に差し出した。肩書の所に女優とだけ書かれている。僕も名刺を渡して、お礼を告げて別れた。

 一ヶ月ほど経ってから、彼女から電話がかかってきた。「近々日本に行かれますか?」、僕は少し考えてから「うん」と返事をすると、「それなら、お願いしたいことがあるので、リトル東京の鮨バーで待っている」と言うのである。

 僕は指定された鮨バーに足を向けた。彼女は日本に三年余り住んでいたことが分かった。彼女の話によると、日本のボーイフレンドは元暴力団員で刑務所にいるので、彼に私が作った人形を渡してほしいと頼み込まれた。日本の空港に私の知人が取りに来るので、その人形を知人に託してほしいと彼女はいう。

 やがて彼女の手作り人形が、僕のもとへ郵送されてきた。一目見て、人形は彼女が作ったものではないと直感した。身長三十センチほどのビニール製の、どこにでもあるような人形である。心持ち人形が重く感じた。

 出発の朝、人形のことが気になってしょうがない。胸騒ぎがする。僕は人形の首を取ろうとしたが、なかなか取ることができない。強力な接着剤が塗られていてびくともしない。やっと首がとれたと思ったら中から少しの水がこぼれた。

 胴体の部分に黒いものが見える。取り出すと真空パックされたものが出てきた。中を開けようかと躊躇(ちゅうちょ)したが、思い切ってナイフを刺してみた。すると白い粉のようなものが現れた。まさかコケイン? 

 僕はLAXへ向かう途中、UPSのオフィースに立ち寄って、人形を彼女のもとへ送り返した。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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新井雅之

文芸誌、新聞、同人雑誌などに、詩、エッセイ、文芸評論、書評を寄稿。末期癌、ストロークの後遺症で闘病生活。総合芸術誌『ARTISTIC』元編集長。




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