後藤英彦のぶっちゃけ放題!
第251回 「切り捨て御免」の副作用
2013-11-26
一読者の投書です。
「事件を捏造(ねつぞう)し、誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)を重ねる外国人(国の実名が書いてある)がいるのに、なぜ日本人はこれを傍観し反論しないのでしょうか」。
捏造は事実でないのに事実のようにこしらえること、誹謗は他人を悪く言いふらすこと、中傷は他人に言葉の暴力をふるうこと。
質問の趣旨は「なぜ日本人はこんなに大人しいのか」ということのようです。
くどくど学問的に言えば沢山あり過ぎて小難しくて、読んでくれそうにありません。
アニメや小説で扱われ読者にも馴染みがあるモノで、説明できないか。(そこで)思いついたのが武士の特権「切り捨て御免」です。
将軍吉宗時代に制定された公事方御定め書(一七四二年)の七一条にこうあります。
「たとえ足軽身分でも、法外な雑言などの無礼を働く町人、百姓を切り殺した場合、無礼の事実が証明されればお構いなしとする」。
一本差しの足軽は二本差しの武士に仕える武士と庶民の間にいる身分。この軽輩の足軽にさえ、公事方御定め書は「切り捨て御免」の権利を与えています。
いわんや二本差しの武士においておや。
武士への無礼は武士の体や刀に当たる行為、大名行列を横切ったり、道を譲らなかったりする行為。
あるいは武士の咎めに謝罪せず、武具等で反撃する行為、のことです。
武士の「切り捨て御免」が、事情に疎い外国人に向けられたのが例の生麦事件(一八六二年九月十四日)です。
武蔵国生麦村(横浜市鶴見区生麦)で、英国人四人が薩摩藩主島津久光の行列前を乗馬で横切り、お供の藩士に無礼討ちされた凶事です。
御定め書はおろか土下座を促す「下に下に」のかけ声すら解しない彼らは逃げ惑うばかり。
武士を怒らせたら、このような危ない目に遭うことを庶民は口伝でよくよく知っています。
(だから)おっかない相手とは関わりません。
江戸から継承した傍観癖は「切り捨て御免」の副作用とみてもよいのではないでしょうか。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

一九六四年時事通信社入社。旧通産省、旧農林省、旧大蔵省を担当後、ロサン








