キム・ホンソンの三味一体
Vol.22 ちいろば先生
2013-06-27
13歳で韓国から日本に行き、滋賀県近江八幡にある近江兄弟社中学校に通いました。琵琶湖のほとりのとても自然に恵まれたところでした。そんなスローライフな環境の中、クラスメイトにとって私のような外国人留学生は珍しかったのでしょう。片言の日本語が話せるようになった頃、皆から質問攻めにあいました。例えば、何か目に入ったものについて「シャーペン、韓国にもある?」などという質問でした。
「あるよ」という返事が続くと、だんだんと対象がマニアックなものに変わっていきました。「孫の手は?」「さすがにシークレットブーツはないやろ?」と言われると、私の方も意地になって初めて聞くものでも「ある、ある」と言っていました。そんなある日、一人の生徒があるお店を指差しながら「ちいろば食堂はあるか?」と聞いてきました。「そんなのないよ。“ちいろば”って一体何?」と不思議に思ったものです。そして数年経ち、ちいろば食堂をはじめ、多くの団体が感銘を受けたために、その名をつけずにはいられなかった「ちいろば先生」について、榎本恵牧師を通して知ることとなったのです。
作家・三浦綾子さんの著書「ちいろば先生物語」で日本中に知れ渡った「ちいろば先生」とは、榎本保郎先生のことでした。今は亡き先生のご子息である榎本恵牧師は、私が中学生だった当時、まぶね共同作業所という障害者の職業訓練を兼ねた作業所の所長さんでした。毎日のように遊びに行き、空君(榎本先生のお子さん)のお守りをしながら、奥さんの美味しいご飯を食べながら、そして作業所の仕事の一つだった牛乳配達へと榎本先生についていきながら、私は「ちいろば先生」について学んだのだと思います。
私にとって「ちいろば先生」は榎本恵先生でした。榎本恵先生の真実な生き方と人に対するその圧倒的な温かさによって、中学生だった私は、それまで自分の世界にはなかったものを体験することができました。
その榎本恵先生が、7月にロサンゼルスに来られることになりました。7月28日(日)午前9時にはウェストLAホーリネス教会で説教を、そして同日の午後2時には日米文化会館での講演会が計画されています。
先日、榎本先生のことを家内と話していると今月で2年と11ヶ月になった娘が、「“ちいろば”は動物?食べ物?」と聞いてきました。「“ちいろば”は、小さいロバさんのことだよ、会いたい?」すると娘は「ロバさんはいらない、おうまさんにする」と言って、みんなを笑わせました。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

