苦楽歳時記
Vol.31 小イカ鍋
2013-05-28
三寒四温は中国の華北地方や朝鮮半島などで、冬季に見られる天候の現象であるが、当地でも、初夏のように汗ばむ日が続いたかと思えば、乾燥して澄み切った大気の冷たい冬晴れの日が続く。
年中温暖な地方として、有名な南カリフォルニアであるが、雨季を迎える冬期には、寒冷の日が幾日かある。特に山沿いや沿岸地帯では、暖炉の火を熾すことが日課となっている。
真冬の寒空に天狼が輝き始めるころ、夕餉(ゆうげ)の膳に鍋料理が用意されていると、ほっと気を和ませてくれる。
「鮟鱇(あんこう)もわが身の業も煮ゆるかな」(久保田万太郎)
東の横綱、鮟鱇鍋に相対するのは、西の正横綱、河豚(ふぐ)鍋である。関西地方では「河豚は食いたし命は惜しい」というように、あたったら死んでしまうので、てっぽう鍋(てっちり)と呼ぶ。
「すっぽんの歯が抜けて落ち秋の椎」(和知喜八)
この両横綱の更に上をいく高雅な鍋物がある。家庭料理としては馴染みの薄い、簡素で優雅なまる鍋(すっぽんの鍋料理)だ。
当地カリフォルニアでも、美味くて、安い、簡単に調理できるのが、小イカのしゃぶしゃぶ。背中の薄骨を取り除いた小イカを、しゃぶしゃぶを食べるときの要領で、まるまんまポン酢につけて食べる。あるいは、よく熱したフライパンで焼いて、生姜醤油をつけて食べる。ポイントは煮すぎない、焼きすぎないこと。
牛肉や豚肉のしゃぶしゃぶと共に、小イカのしゃぶしゃぶを食べるのも、また楽しい。
一句「冬盛りスミに置けない小いか鍋」。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

