後藤英彦のぶっちゃけ放題!
第212回人生の旅路を物語る並木路
2013-05-28
往年のイタリア名画「道」、「ラ・ストラーダ」は英語のストリートに当たる言葉で、旅芸人と清い心の女の出会いと別れを描いた作品です。
「大道の歌」(ホイットマン作詩)の英語タイトルは、「オープン・ロード」。これも人生を道にかぶせた自由詩です。
もともとロードは「輸送用道路」のことで、並木路の叙情とは無縁です。トラックや荷馬車の匂いがします。
道路の種類は様々で、ブルーバードは高規格の並木路や歩行者・自転車の側道を備えた道の貴族。
パリのシャンゼリゼ通り、メンフィスのエルビス・プレスリー通り、ロスのサンタモニカ通りはブルーバードの威容を伝えています。
英国でブルーバードに劣ればアベニュー。アベニューは街路樹、車道、歩道を備え、一段落ちればストリート。
米国は英国と違って南北を行く通りをアベニュー、東西に延びる通りをストリートとします。マンハッタン通りは南北を走るからマンハッタン・アベニュー。
市街を貫く通りはストリートで、並木を連れて建物や施設のあいだを走ります。
オックスフォード通りはロンドンの要衝路の一つ。しかし狭い道幅とまばらな街路樹のゆえ、ストリートの名に甘んじています。
路地・細道はレーン、公園・庭園の散歩路はパスで、歩行者の癒しと安らぎに寄与しています。
心に残る街路樹の路といえば何を思い出しますか。わたしは名画「第三の男」の最後のシーンが忘れられません。
ウイーンの中央墓地の並木路。ハリー・ライムの葬儀を終えてハリーの恋人アリダ・ヴァリを待つジョセフ・コットン。
遥かかなたから並木路を歩いてくる彼女、彼のそばを一瞥もくれず通り過ぎます。ウイーン情緒の帽子姿で・・。
冬枯れの地平にまっすぐ延びる無人の並木路はツィターの奏でるハリー・ライムの調べにけぶるばかりです。
人生の旅路を並木路に語らせたラストシーンは映画史の金字塔といわれています。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

