Alice in WINEderland
Vol. 20 Château Chasse-Spleen
2013-01-21

ふと立ち寄った近所のワインショップBevMo!でこのボトルを発見し、懐かしい気持ちになり、普段着ワインにしては$49は…と思いつつも大奮発して購入。
2008年の10月のある日、当時、会社帰りによく通っていた神田駅近くの老舗ワインバーG’dropのカウンターで、いつものように一人、赤ワインの入ったグラスを目の前に物思いにふけっていた。すると、もう既に酔っ払っていると思われる40代前半くらいの男性が2つ横の席に座った。
「いやぁ困っちゃってね。大学の同期は皆出世しているというのに、こんな事になっちゃってさー。俺、大学時代はあいつらより頭良かったのになー。」と独り言にしては、かなりの音量であったため、話しかけられたのかなと少し気になりながらも、そのままそっとしておくことにした。すると突然手を挙げて、「マスター!俺にぴったりのワインを選んでくれ」とカウンターの奥に向けて一言。なんだか、ドラマ「ソムリエ(1998年)」のワンシーンのようで、目が離せない展開に少し緊張した。マスターは、お客さんと簡単な世間話をした後、奥のセラーへ消えて行った。数分後、このボトルを持って来られた。特段ドラマチックな解説ではなく、ボルドーの格付けではないが、通には人気の本格ワインであることを説明され、大きめのグラスに注いだ。そのお客さんが満足そうに、今度はかすれる声で「良い香りだね」と言ったことが印象的だった。
せっかく奮発ワインを開けるのだからと、ワインの背景を調べてみた。その品質の高さから「過小評価に世界が気がつき始めたワイン」と言われている人気のワインであり、Chasse-Spleenとは「憂いを払う」の意味で、1821年、このシャトーに滞在した英国の詩人バイロン卿が名づけたとのこと。英語の文献では「dispels melancholy」というようにも訳されている。
はっとする。あの時、マスターは、本当にそのお客さんに合うワインを出されたのだということを、4年越しに気がつき、なんだか優しい気持ちになった。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

ワインコンサルタント








