苦楽歳時記
vol.15 ネクタイ
2012-10-24
「ネクタイもきりりと締まる今朝の秋」(北岡成章)。秋涼の足音と共に、ネクタイの季節が始まろうとしている。
二〇〇五年の夏、小泉内閣の呼びかけで、ネクタイや上着を着用しないクール・ビズの奨励が始まった。酷暑のノー・ネクタイは、仕事の効率を上げてくれる。けれども、スーツにかなうネクタイを選ぶときのように、ノー・ネクタイ姿になった折の、シャツのデザインや色調を十分に考慮していないと、人の目には不規律に映ってしまう。
その点、イタリア人はネクタイを締めたカジュアルと、ノー・ネクタイの正装を着こなすのにぬかりがない。
水玉模様のネクタイだけを愛用したのは、海部俊樹元首相である。その意味合いは、相撲の白星と同じであることから縁起が良いという。
アメリカでは、水玉模様のネクタイは「いつまでも煮え切らない」イメージを彷彿とするらしい。水玉は優しそうに見えるが、ややもすればナイーブにも映る。おそらくアメリカ人は、男らしくて力強いイメージを好むのであろう。
愛国心を強調するためか、アメリカでは大統領選挙の候補者は、シャツやネクタイを選ぶ際に、星条旗に入っている色(赤、青、白)を意識するそうだ。
巷では、フォト・タイが脚光を浴びて久しい。日本ではコミュニケーション・タイと呼ばれているネクタイとは、家族やペットの写真など、自分の好みの写真をネクタイの柄にすることである。
ところで、日本で最初にネクタイを締めた人物とは? 正解はジョン万次郎。嘉永四年(一八五一)に米国から帰国した際に、所持品の中にネクタイが入っていたとの記録が残っている。
十月一日はネクタイの日だが、小山梅吉が明治一八年(一八八四)この日に、初めてネクタイを生産したことを記念して制定された。
先ごろセレブの御用達、エミリオ・プッチのネクタイを締めて、ビバリーヒルズでショッピングを満喫してきた。とは、秋の夜長の夢物語。正夢になるだろうか。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。