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コラム

苦楽歳時記
vol.12 チャレンジド

2012-10-24

 将棋の第四代名人、升田幸三は、「人生は日々これ戦場」であると語っている。勝負の世界は厳しいものである。しのぎを削る戦いに神経が病み、決戦の繰り返しのはてに、「新手(あらて)一生」という語句に辿り着いたのであろう。僕にはとうてい理解できない領域だ。

かくいう僕もまた、日々戦場なのである。末期癌と右半身不随に言語障害があるからだ。夜、眠る前に、きょうも一日生きることができた。と感謝する思いと、錯雑な気持ちが綯い交ぜになって、時として不安な夜を過ごすはめになる。敵の弾丸が不意に飛んできて、あした死にはしないかと杞憂する。
 
幸いにも末期癌なのに、全く痛みを感じない。抗癌剤の副作用も、ほとんどないのも有り難い。僕は買い物が好きであるから、家人を伴って月に二、三度は、スーパー・マーケットへ食料品の買い出しに赴く。スーパーを一回りするぐらいなら、杖をつかずに歩けるのだ。その代り右腕は全く動かない。

ハンディキャップの僕にも、ささやかな楽しみがある。食いしん坊な僕は、少なくとも週に一回は食べ歩きをする。これも家人と十一歳の娘を伴って出掛けるのだ。行き付けのレストランがモントレーパークに一軒と、サウスベイに数軒ある。

初めて入るレストランは、知己が推奨しようと、インターネットで調べようが、はたまた巷で評判が良かろうと、大概は期待外れの味だ。昨年の秋から暮れにかけて、マイブームとなったレストランは、ガーデナにある『Eatalian Cafe』。

メニューに記載されていなかったが、「本日のお薦め」としてシーフード・リグインネを頂いたところ、実に風味豊かな味わいであった。

僕はチャレンジドになって限りなく幸せだ。悪病と戦うようになってから、何事も前向きに捉えるように心掛けている。聖者と仰がれた、ヒルティの次の言葉に心が惹かれた。

「幸福は健康がなければ生じないというのであれば、悲しいことであろう。だがそれは真実ではない。不幸な病人があると同時に、幸福な病人もあるのである。病気と幸福は絶対的に対立させるものではない」

「病気もまた幸福であり得るのであって、健康な日には起こらなかったものが、一段と高い人生観への浄化剤ともなり、血路ともなることが出来るのである」(カール・ヒルティ『幸福論』より)


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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新井雅之

文芸誌、新聞、同人雑誌などに、詩、エッセイ、文芸評論、書評を寄稿。末期癌、ストロークの後遺症で闘病生活。総合芸術誌『ARTISTIC』元編集長。




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