苦楽歳時記
vol.9 W・C
2012-10-24
元横綱の輪島がアメリカ巡業の折、トイレの場所を尋ねるのに一苦労したそうだ。「W・C」と言っても、まったく通じなかったので、横綱は発音が悪いせいだと思い込み、紙に「W・C」と書いて見せたが、みんな首を傾げるばかりだった。
W・C(ウォーター・クローゼット)は英語だが、アメリカのトイレの呼称は、レスト・ルーム、もしくはバス・ルームが一般的。イギリスは日本と同じくトイレ(toilet)で通じる。
因みに日本の学生たちの間で使われている 「W・C」の隠語は、ワセダ・カレッジとホワイト・クリスマス。
かつてパリのチュイルリー庭園を散策していた際に、公衆トイレの壁に大きな文字で「W・C」と標記がされてあった。 本来は英語である 「W・C」 が、フランスではトイレの標記に使われていた。果たして近隣国のベルギー、スイス、スペイン等でも、トイレの標記は「W・C」なのだろうか?
その昔、フランスにはトイレが無かった。ベルサイユ宮殿も例外ではない。宮殿で度々催される華麗な舞踏会では、正装した紳士淑女たちが、携帯電話ならぬ携帯便器を持参していた。
携帯便器に行儀よく用を足した後は、随行の者が排泄物を宮殿の中庭に捨てたので、ベルサイユ宮殿のバラは、肥料に事欠くことなくすくすくと育った。だが、回廊から中庭の花壇を観賞する際に、そよ風が運んでくるのは、高貴なローズの香りではなく、強烈な田舎の香水の香りが漂ってきた。
余談をもう一つ、パリには『ロダン美術館』がある。かの有名な「考える人」の格好は、どう見ても便座に腰をかけて用を足している姿に見える。それでは、人間はどうして狭いトイレの中で、よく考え事をするのだろうか。その答えは、トイレは「思考」(しっこ)する所であり「空想」(くそ)する場所であるからだ。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

