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コラム

苦楽歳時記
vol.6 太宰治とドナルド・キーン

2012-10-24

 二〇一一年、日本文学研究者のドナルド・キーン(鬼怒鳴門)さん(八十九歳・当時)が、東日本大震災をきっかけに、日本に永住(帰化)されることが決まった。生涯独身を通してこられたキーンさんは、「私は日本という女性と結婚した」。記者会見の席上でこう述べた。彼は日本の国をこよなく愛しているのだ。 
   
山崎富栄と共に玉川上水に入水自殺した太宰治は、溺死した客月に短編小説「桜桃」を『世界』に発表している。
 
太宰はこの創作の本文に入る前に聖書の詩篇から、第一二一篇の冒頭にあたる「わたしは山にむかって目をあげる」を副題として引用している。
 
太宰の作品には聖書からの引例や、キリスト教についての言及が夥しい。とりわけ『斜陽』には聖書から数多に引用されている。
 
英訳を手掛けたドナルド・キーンさんは、翻訳をする際に省略の必要性を強く感じたと述べている。
   
 また、ドナルド・キーン著の『日本の作家』(中公文庫)に於いて、実に興味深い事柄が論じられていた。「キリスト教は一種の謎めいた要素であって(太宰にとって)重要なものではない」と断言しているのである。
 
キリスト教は太宰の好奇心を煽り立てる唯一の啓蒙であり、聖書の中で太宰自身の知的情緒と共鳴する聖句を発見しただけに過ぎなかった。
 
信仰の面では教会には属さず、聖書を自己流で学び、受洗をしない信仰的救剤のない半キリスト者としてみなされていた。
   
僕はキリスト教が太宰にとって一種の謎めいた要素であって、重要なテーマでなかったと確信しているドナルド・キーンさんの考察、『太宰治論』に対して、異論を唱え続けて四半世紀が経つ。                              

 ドナルド・キーンさんは創作にだけ重点を絞って、思索を深くめぐらしながら切り込んでいく手法を採られている。従って、随筆、書簡、証言、病歴、心理分析などへのアプローチが、希薄となっていることは自明の理である。

 紙面に限りがあるので一つだけ例を挙げれば、深江絹代のエッセイ『太宰治と聖書』には、「太宰は聖書を知識としてのみ読んでいたのではない」、「聖書と太宰文学との関連を無視したなら、太宰文学の理解は不可能だ」と喝破した。    

日本文学の碩学を前にして、まことに僭越な発言をしてきたものである。僕は未だに僕の見解が正しいと一途に信じている。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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新井雅之

文芸誌、新聞、同人雑誌などに、詩、エッセイ、文芸評論、書評を寄稿。末期癌、ストロークの後遺症で闘病生活。総合芸術誌『ARTISTIC』元編集長。




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