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コラム

後藤英彦のぶっちゃけ放題!
第186回 中元、贈る側と受け取る側

2012-08-29

贈り物の国、日本。中元のこの時期になると〝あの事件″のことが思い出されます。
 大学時代を過ごしたのは佐賀県の運営する学生寮(東京・渋谷区松涛町)でした。
 鍋島侯爵家から佐賀県に寄贈された最高住宅地(鍋島藩邸跡)の一角に建っていました。
 学生寮の裏に本宅を構えた鍋島家は、夏季恒例の中元配りに学生寮の私たちを使いました。
 池田勇人氏が首相を務めていたある夏のこと。次期首相に内定していた佐藤栄作氏宅(世田谷区)に中元の大皿をもって出かけました。
 鍋島家お抱えの鍋島窯で焼いた大皿で、有田焼のなかでもとりわけ雅趣ある逸品です。
 佐藤家の玄関は開け放たれたまま。用を告げると眼鏡をかけた色白の女性が出てきて「裏に回って!非常識な子ね」とどなりつけました。
 鍋島家にゆかりの深い元家老家の光村氏によると、私を叱りつけた例の女性はお手伝いではなく、佐藤夫人寛子さんとのことでした。
 半世紀前のことなのに、昨日のことのように甲高いあの声が、この耳に残っています。

 日本人の贈り物史は「神人共食の思想」といわれ、供え物を神に捧げ、神と人が共に食する原始の祭事に由来します。
 やがて人間関係を築く手段として、物を交換し合う独特の文化へと発展します。
 中元、歳暮はむろんのこと、入学祝、卒業祝、就職祝、結婚祝、出産祝、誕生祝、古希の祝。母の日、父の日、こどもの日。叙勲や茶道、華道、剣道、日本舞踊の段取り・名取りの祝賀。
 物をやりとりするプロセスで独特の人間関係が育ち、上下関係にも血が通います。
 贈り主は贈る相手に感謝の気持ちを伝え、将来の厚情を期待します。受け取る側は受け取るだけでは駄目で、贈り主の無言の意図を察してあげなければなりません。。
 もらった分の借りができるその分、心に留めなければなりません。だから受け取る側が負担に思えば断る自由もあるといわれています。
 下心のある贈り物は欧米では一種の賄賂とみなされます。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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後藤英彦

一九六四年時事通信社入社。旧通産省、旧農林省、旧大蔵省を担当後、ロサン
ゼルス特派員。本社海外部次長。途中希望退社して盛岡大学客員教授、評論活
動。二度目の来米でジャパン・ジャーナルを主宰。講談社、エルネオス系を中心
に寄稿中。主著に「日本をダメにした官僚の大罪」(講談社)。中大法学部法律
学科卒業。福岡県出身。グレンデール在住。

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