キム・ホンソンの三味一体
vol.10 メンタルな生き物
2012-06-23
先月は休暇をとり、家族3人で日本に行ってきました。1歳と10ヶ月になる娘にとっては初めての飛行機でした。「夜の便だから眠くてすぐ寝るでしょう」という私たちの淡い期待は、搭乗してから間もなく機内に響きわたる娘の泣き声に跡形もなく打ち消されてしまいました。30分寝ては起きて30分泣くサイクルの中、一晩中、私たちが交代で娘を抱っこして客室乗務員が働くギャレーで娘をあやすことができた原動力は、娘への愛情というよりむしろ同乗した方々への申し訳なさでした。
“針のむしろ”とはまさにこのことで、体のどこにも痛みがなくとも「極度の申し訳のなさ」というのが人間をどれだけ窮地に追い込み得るかという、要するに人間はメンタルな生き物だということが身にしみて分かったのであります。
もう一つの発見は、被害に遭っている側(この場合だと他の乗客の方々)が、その被害の状況は変わらずして、加害者(私たち)に怒りをぶつけるどころか、同情し得るということです。これもまた人間がメンタルな生き物だということを裏付けているように思えます。乗客の多くは過去の同じような経験を思い起こして、相手を気の毒に思い同情してくださっているようでした。特に中高年層の女性の方々に「全然気にすることないわよ。みんなもそうだったんだから」、「繊細だから将来きっと芸術家になるわね」などとたくさん優しい声をかけていただいたのです。
大変だった過去の経験やその時の感情が、その人の現在において他人を思いやることができる心の余裕を与えてくれていたのではないかと思います。同時に、他者を思いやることで、その人自身のストレスも幾分か軽減されるのかもしれません。今回の旅では育児の先輩方の優しさに触れ、自分たちもまた苦労をただの苦労で終わらせず、人を思いやれるようになりたいと思うことができました。
ロスまでの帰りの便は、行きの便での苦い経験を思い、一晩中でも立って娘をあやすことができるようにと、心身共に備えて臨みました。しかし、乗って間もなくあまりにも簡単にバッタリ寝てくれた娘を目の前に、いつ大泣きして起きるかとハラハラしながらスタンバイし続けた結果、何と一睡もできず、そのままロスに着いてしまいました。やはり人間はメンタルな生き物のようです...。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

