後藤英彦のぶっちゃけ放題!
第96回 確かめない噂話の好きな人々
2010-11-23
三十余年前の話です。ある大学のT学長に美人の二号さんがいる、そんな噂が立ちました。取材を通して知己になり、年に二、三度会うだけでしたが、がっかりしてしまいました。
それから六、七ヵ月後のある日、勤め先の通産省の記者クラブに、T学長からの電話で食事に誘われました。目と鼻の文部省に来ての帰り、ということでした。
最寄りのビル最上階の中国飯店で食事をとりましたが、彼は浮かぬ表情の私に、「ゲスな噂が耳に入ったでしょう?あれは悪ふざけでして」と語り始めました。
T学長によると、同じ苗字の教授の一人が、若い女性と歩いている現場を誰ぞに見られ、噂の伝言遊びで「T学長に美人の二号がいるぞ」、となったようです。
例の教授は偶然会った教え子と駅まで一緒に歩いただけとわかりました。「学者の中にもやっかみ屋や愉快犯はいるもので、作り話を仕立てて楽しむのです」。T学長の当惑した顔が昨日のことのように思い起こされます。

「後藤さんにも妙な噂がありますよ」。「どんな噂ですか?」。「気にするほどでもありません。作り話です」と相手。再三訊いても、それ以上のことを教えてくれません。
当地に住んで二十年の私に、思い当たることが一、ニあります。その一つ。同じ苗字でファーストネームの一文字違いの男です。借金を踏み倒し、奥さんを殴って刑務所に入ったという人物です。
顔を合わせたことのない人々の中に、彼を私だと誤解している向きも、過去にはいたようでした。今も、噂を確かめないままに私を彼にしたがる人がいるのでしょうか。
もう一つ。電話口の横柄な女性に腹を立てたことがありました。虎の衣を借る女狐一匹。社会人としてなっていないと思いました。人の名誉を傷つけるのは案外、この種の人かも知れません。
噂を確かめないで、人の足を引っ張る愉快犯。LAの日系諸団体、日本伝統文化の諸団体、教会、寺の信者の中にも悪口好き、噂好きがいるそうです。迷惑な話です。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

