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日刊サンはロサンゼルスの日本語新聞です。 記事は毎日更新、求人、クラシファイドは毎週木曜5時更新。

第9回 ポエム・タウン

<成人の部>


人生は思っているより短い  山下さち


夜の九時三十分
車はライトをつけて
右へ、左へ
それぞれ 走る、走る
十時、
まだ 進む
どこへ行くの
右へ、左へ
人間の最後は死。
わかっているの?
確信があって
今を生きているの?

ラストタイム  古賀由美子


そろそろこの世ともさよならって予感
何か思い残すことってあるかしら

こんな私でもずっと我慢してくれた優しい夫
こんな私でもお母さんと呼んでくれた子どもたち

才能も何もなかったけど
私は私の身の丈で充分幸せに生きてこれたと思う
これも周りのみんなのおかげ
本当に感謝している

ゆっくりブルースが聞きたいなぁ
陽だまりのバルコニーで
深々と椅子に腰かけながら
かわいた陽気なおじいさんたちのブルースを

そうだ
私のお葬式にはブルースを流してね
うふ
何か楽しそう
たった今思いついたことだけど
「じゃあバイバイ」って気楽に天国へ行けそう

男とは  石井志をん


「セックス以外に男が考えていること」
という本が有り
開けてみると白紙だった

マリリンモンローは
「女にもセックスは必要だ」
と言ったとか

思えば
私にもそんな時期が有った
ほんとの恋をしていた
そして子を授かった
命が絶えないように
神様は上手に
プログラムしたもんだ

男の考えている事など
死んでも分からない
分からなくって良い
でも
韓国の少女を拉致して
慰安婦にしたというのは
デマだと聞いて嬉しい

童話  若林道枝


「生ごみをあつめたビニール袋を
透かして
いろんな童話が覗いているね

おじいさんは山へ柴狩りに
おばあさんは川へ洗濯に

おじいさんも
おばあさんも
ここにはいない

おじいさんは山へ行って
酒を飲み
おばあさんは川へ行って
裸を見せる

蹲って祈る
童話を知らない

昔々戦争があって
勝ったのは誰か負けたのは誰か
おじいさんもおばあさんも知らない

ビニール袋を透かしての
雑然とした生ごみの郷愁は
許されないから

ざわざわとゆれる木立
さらさら流れる水の音

おじいさんも
おばあさんも
ここにいない

友へ  マキ・ヨシダ


風が吹いているわけでもなく
雨がたたきつけているわけでもない

なのにあなたの湖は絶えず忙しい
右へ左へ交錯する水しぶき

一体どこからこんな音が飛んでくる?
どこにこんな力がある?

水の深さは底知れず
最初、私は距離を置こうと思った

今はよくわかる

他の力を借りず
己の持つもつもの、与えることが出来るもの全てを
惜しむことなく
力いっぱい出しきっている

思う存分跳ね回ったら
水面は硬く張り詰め、音もなく静かに眠る

美しく透明なこころねをたずさえて
あなたの湖は本当の姿にもどる

その湖に出会えたことを
感謝している

光ってみたい  みちこ


真夜中の
ホンの少しの雨だったのに
こんなに朝を光らせてくれた

しんしんと
冬の訪れを伝える
空気でさえも光っている

初老の私だって
光ってみたくなる朝だこと

いってらっしゃい  古田和子


丸いお膳に家族が揃って
御飯におみおつけに
うずらの卵の朝ご飯

それから
姉は学校へ
父は会社へ
一人ずついなくなって
私ももうすぐ幼稚園に行かなくては

父を玄関で見送りながら
その朝私は
「いってらっしゃーい」と言わないで
「パパ行ってこなくていい~」
と大きな声を張り上げた

「もっと一緒にいたいから
行ってしまわないで」

と心から叫んだつもりだったのに
祖母に厳しく叱られた
「パパ帰ってこなくていい」とは
なんてことを言うのですか

「いってらっしゃい」は
「ご無事に行って
ご無事に帰ってきて下さい」
という長い意味の言葉だと
初めて知った
小さい子だった

無情  内 アリス


自然界の中には
一つの方向に
流れていくものがある
それは無情にも大きく
どうすることもできないもの
流れは無情と
一緒に駆け巡る
そこに人は生かされる
押し流されぬように
弱音を吐いたら
とり残されるだろう
強気になったら
迷いこむだろう
それ故に
人は強く生きる
人は優しく生きる

夏の終わり  平田ミチ


私の前に座っている貴方
共感の眼差しで私を見る貴方
郷愁の語らいで私を迷わす貴方
その視線がその言葉が息苦しく時を刻む

窓の外は夏の終わり

貴方の前に座っている私
無意味な時の中で
視線をさえぎり外を見る私
郷愁を断ち切り空を見る私
響きの無い空間が重々しく時を刻む

窓の外は夏の終わり
今、私はその中にいる


選者のことば

『ラストタイム』古賀由美子さん。死の予感を感じて家族に感謝する。四連目と五連目、「ブルース」。この一語が更に詩を深めます。南部の黒人の葬式を連想させました。

『人生は思っているより短い』山下さちさん。多分、車に乗って、運転者に語っているのではないだろうか。相手は息子、娘、あるいは夫。数時間の出来事を詩に綴る。最後の四行が切実的で、巧みな結びになっています。

『男とは』石井志をんさん。一連目の書き出しが素晴らしいです。二連目もそれにつながります。三連目は回想。最後は慰安婦問題で締めくくっています。構成がしっかりとしています。

『童話』若林道枝さん。読んでいくうちに、詩の中に引きずり込まれます。展開が面白いです。考えさせられる詩です。

『夏の終わり』平田ミチさん。この詩も展開が小気味好いです。「窓の外は夏の終わり」が効果を上げています。

『光ってみたい』みちこさん。二行目、「雨なのに」にした方が効果的です。「真夜中の」と「朝を光らせてくれた」。中央に位置する「だっ」によって効果がうすらぎます。「雨なのに」にすることによって、「初老の私だって」が生きてきます。

『無情』内 アリスさん。箴言を読んでいるようです。言葉が整理、推敲がされています。アリスさんの人生観なのでしょう。

『いってらしゃい』古田和子さん。言葉の誤解を招いて、幼い子は成長します。スケッチ風のちょっぴり苦い、心温まる詩です。

『友へ』マキ ヨシダさん。読み応えのある詩です。二連目の「なのにあなたの湖は絶えず忙しい」から、一気に引きずり込まれます。最後の三連が非常によろしいです。


前回と同様に今回の応募作品は、【青少年の部】、【成人の部】いずれもレベルが高いです。選者冥利につきました。感動をいざなう作品が数多く見られました。

(新井雅之)



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