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第9回 ポエム・タウン
<成人の部 俳句区>
嶋 幸佑選 山茶花や妻にいまだに紀州弁 鈴木ロジー
日刊サン賞 渋柿と人は熟せば甘くなり 詩月直竹
TJSラジオ選 渡る風音色を移し冬詠う 平凡人
ゲスト選者 山口弘選 沈む日の涯に母あり彼岸花 生地公男
佳作 初雪や森羅万象掛け布団 平凡人
佳作 古傷のまた痛み出す野分かな 石井志をん
佳作 満月の背なにいっぱい抱きつかれ とくのぶ
成人の部 選者のことば
「山茶花や―」。山茶花という季題が私たちに与えるイメージはどのようなものだろうか。初冬の寂れた風景の中に、淡い紅色の花を咲かせる。古くから、そんなさびれた印象が歌や俳句に詠まれてきた。一方で、すぐに思い出すのが「さざんかさざんか咲いた道」の唱歌。焚き火にあたりながら眺める山茶花には、さびれた印象ではなく、どこか温かみも感じさせる。しかも、花言葉は「困難に打ち勝つ」「ひたむきさ」。掲句は、そんな近代の山茶花のイメージだ。長年連れ添った夫婦。アメリカに移住してからいろいろな困難を二人で乗り越えてきた。紀州生まれの妻はいまだに紀州弁で夫に話しかける。山茶花の季題が見事に生きている。
「初雪や―」。なんと言っても、「森羅万象」のスケールの大きさをかった。ワァー、よく降ったなーという感動がそこにある。「掛け布団」という描写も面白い。
「古傷の―」。野分は、秋の野を分けて吹く強風のこと。窓から吹き込む冷たい風は確かに古傷によくないが、この作者の場合、それは心の傷なのではないだろうか。何年経ってもまた痛み出す。野分の季題が、吹きすさぶ音とともに、痛々しさに現実味を与えている。
「満月の―」。描写の面白さをかった。満月を背中に受けながら歩いている作者。皓々たる月の光に抱きつかれたように感じた。「満月の」という、軽い切れもいい。
全体の作品について一言。意外と説明や報告で終わってしまっている作品が目に付く。何に感動したかが見えてこないのだ。大きな原因のひとつは、季題の力を生かしきっていないこと。季題の力を生かすためには、とにかく季題への深い理解が必須。歳時記から多くを学ぶようにしたい。(嶋 幸佑)
渋柿は熟して来ると渋みがなくなり本来持っている甘みが強く出るようになるというが、なるほど人もそうかもしれない。時間と共に変化して甘くやさしい味になっていく。この詩を詠み私も渋柿のように熟していきたいと感じた。(日刊サン)
風が肌をくすぐる、その香りの中に季節の変化を知る。そんな素敵な一瞬がとても美しく、まさに俳句が奏でられていますよね。冬の音色は風の冷たさに反して暖かかったり、透明感のある清々しいものだったりと、郷愁や希望も感じられる、そんな音色が聞こえてきそうです。(TJSラジオ)
沈む夕日の涯には在りし日の母と日本がある。彼岸花に寄せて母を偲ぶ作者の心情が伝わってきます。季語は日本の自然や文化のなかから生まれた感情豊かな言葉です。何事もドライなアメリカ文化の中では自ずとその響きも変わってしっくりしないことが多いと思いますがこの句の中では彼岸花が生きています。(ゲスト選者・山口 弘)
<青少年の部 俳句区>
嶋幸佑選/日刊サン選/TJSラジオ選 該当なし
ゲスト選者 山口弘選/佳作
ハロウィンやカボチャもわらうお化けたち リッジクレスト中学校2年 兵庫光太郎
青少年の部 選者のことば
「ハロウィンや―」。トリック・オア・トリートに出かけるため思い思いに仮装した子どもたち。中には奇妙きてれつなものもあった。それを愉快に笑っている子どもたち。「カボチャもわらう」としたとことがいい。楽しいハロウィンを過ごしたに違いない。(嶋 幸佑)
ハロウィンの夜の仮装したお化けの子供たち。トリック・オア・トリートの声も聞こえてくるような気がする。ハロウィンになくてはならないカボチャにも目鼻が彫られてお化けの笑いが子供たちを迎えている。そんなハロゥィンの夜の雰囲気がよく出ていて共感できる句です。ここでは“カボチャ”もアメリカの季語の匂いがする。(ゲスト選者・山口 弘)
俳句 ゲスト選者

山口 弘さんプロフィル
帰米二世。航空工学技師として米国の会社に30年間勤務後引退。その後9年間毎日新聞社Fax毎日(毎日新聞社米国法人)社長を務める。現在は地域社会で奉仕作業に専念している。サンファナンド・コミューニティ・センター会長、パイオニアセンター会長、日商副会頭、県人会協議会副会長、小笠原流煎茶道南加総支部長などを歴任。俳句とのなじみは感情多き青年時代の名残。当時の記録は空襲で吹き飛んで今はまぼろしの存在。
<成人の部 日刊サン選「スポットライト俳句」>
ハロウィンの南瓜を除けて郵便夫 塚本 惠
秋夜風父に思いを馳せるかな ヒロコ・J・ディカーソン
雪富士と東京五輪が輪を広め 那智高雄
こぼれ咲きダリア一輪ヘイの外 真船圭子
暮れる年くれない年金当てにする 鈴木清司
秋の月輝く黄色水おもて 前田栄子
短日や友へ寄道ためらいつ 野島弘子
稲を扱く婆様の背よ只丸し ローペス文子
団栗のヤジロベ作る無心顔 榊原フジ江
ピリオドはやはり寂しい木の実落つ 古賀由美子
敬老日知人は減るも増えるしわ 生地公男
秋雨のダイヤ散りばめ蜘蛛の糸 京乃一人琴