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日刊サンはロサンゼルスの日本語新聞です。 記事は毎日更新、求人、クラシファイドは毎週木曜5時更新。

第7回 ポエム・タウン

<成人の部>


心の住処  石口 玲


アメリカに住めば住むほど
アメリカを好きになります


日本を離れれば離れるほど
日本をいとおしく
日本を愛している自分を感じます


日本とアメリカ


この間に挟まり


【心の住処(すみか)】は何処なのか


私の心は、


今も揺れています

もう一人の読み手  みちこ


詩集


58ページと
59ページを
読んでいたのだろう



ご主人さまに
閉じられて
ページの綴じ目に
ぺちゃんこで


乾いたまま
今も
同じページを読んでいる
もう一人の読み手
蛾・殿

息子  マキ・ヨシダ


こんなにも深く美しい色を魅せつける海
ゆっくりと飲み込まれていく、やわらかな太陽


思わずエンジンを切る


隣に座る息子は、言葉なき子


何をもって、君はその感動をあらわすのだ?


彼の顔に、きらきらとした青とオレンジの色彩が吸い込まれていく
小さな小さな色の妖精が彼のところだけに訪れる
それはとてつもない速さで


もう十分だよ


そこには、誰よりも私が愛する笑顔があった

心の花瓶  フィッジェラルド・ナヲ


同窓の心の花瓶が
幾つにも割れて
日本から着いた
パズルよろしく
直したら
彫って有る梅の花が
同窓の笑顔と重なった
花瓶の割れてきた事は
終生内緒
又 学生時代に戻り
あなたと共に学びたい
この二行の添え文に・・・
同窓よ
戻りましょう
素敵な人生を過ごした
あの学生時代に・・・
永久に覚めない
夢の中でね

使命  宇都湖畔


突然
薔薇の蔭から
スーと伸びた
黄色のカラーリリイ


孫が母の日に送った
鉢植えを
花が終り土に返した球根
いつしか存在さえも忘れていた


ながーい冬を
静かに耐えて
子から母へ
母から又その母への
思いを深く秘めて


毅然と
より黄色を主張して
使命のように
美事に咲いた
花一輪

出逢い  工藤紀美子


都会の喧騒の中で
人はあせくせ動く
生きるために
人に出逢い
人と戦い
人と笑う


都会の喧騒の中
人はあせくせ動く
生きるために
人はゆっくり歩く
人は急いで歩く
人はつまづきころぶ


都会の喧騒の中で
人はあせくせ動く
生きるために
人は安住の地を求め
人は夢を追う
人は世界をかける

乱視  内 アリス


山は削られ
むき出しの肌が
まともに夕陽をあび
平行線の検査表も
遠くで交わって見える
乱視の描き出す
不条理の交叉
いつもこの目で見て
たしかめ
信じていたものが音をたてて
崩れ落ちてゆく


あぶないと
叫んでも
誰の耳にも届かない
誰の目にも
削られた山肌は
緑を失くして
そそり立っている


知ってしまった痛みに
誰も気づかなくとも
胃の痙攣が続き
突然の目眩に
しゃがみこむ


いつものとおり
空は広く
かかえこんだものの重さも
受け入れて
陽が沈む

詩集  古田和子


たしかな言葉で人に触れ
読む人を力づけ癒し愛されてきた
あなたの詩集はもうありません


あなたのお身内の弁護士から
もう一冊も作るな売るなと
突然舞い込んだ警告でした


「愛する優しいお兄さん」の
詩作に理解のないお身内でした


友情の結晶なる詩碑のことも
あなたの英語の詩集のことも
知らなかったお身内に
聞かれるままにお教えしたのに


あなたの若い日の詩のかずかずを
大正時代の新聞に探していた私を
お兄さんのお墓の下を荒らすなと
お身内は責めて来られました


あなたがそれほど嫌う事を
わたしはしたのでしょうか
砂を噛む思いをしています


もう詩集はありません
全部さっぱり捨てました


移民の父祖に思いをはせながら
畑を耕したあなたの傍を
低くチラついていた蝶が
私の畑でやっぱり低く
今日もチラチラと飛んでいます

人生  平田ミチ


人生ってこまった事だらけだよ
たくさん泣いて傷ついて
たくさん怒って傷つけて
人生っておかしな事だらけだよ
たくさん愛して傷ついて
たくさん幸せ傷つけて
人生って捨てたもんじゃないんだよ
たくさん傷つき救われて
たくさん傷つけ許されて
それが人生、それも人生


選者のことば

『心の住処』石口 玲さん。アメリカと日本の狭間で、作者の葛藤を描いた作品。その気持ちよく分かります。正に心の住処ですね。分かりやすく上手くまとめています。

『もう一人の読み手』みちこさん。詩集を読んでいたら、ご主人さまに閉じられてしまう。やや難解な詩ですが、「機会詩」(オケイジョナル・ポエム)に近いです。三連目の表現が巧みです。蟻・殿が効いています。

『息子』マキ・ヨシダさん。母親の恩愛を全身で感じました。言葉なき子の感動はと考える母。五連目の描写が光っています。感動の答えは、母が愛する笑顔だったのです。詩の中に引きずりこまれました。これも秀作です。

『心の花瓶』フィッツジェラルド・ナヲさん。日本から送られてきた花瓶が割れていて、ガッカリするも彫ってある梅の花が、「同窓の笑顔と重なった」。話しの展開が興味を引きます。結びの一行は、やや浮かれ気味なのが気になりました。

『使命』宇都湖畔さん。淡々と表白された「使命」。四連目を推敲してください。結びも一考するとよいでしょう。期待しています。

『出逢い』工藤紀美子さん。リフレーンは考えものですが、この詩に関しては違和感がありません。結びの一行が効いています。

『乱視』内 アリスさん。乱視に難儀する様子が克明に描かれています。書き出しも結びも、読者に与える想像力が掻き立てられます。全ての連が躍動感を持ち生き生きとしています。二重丸の秀作です。

『詩集』古田和子さん。加川文一の詩集と詩碑に情熱を注いで来られた古田さん。自ら発行された加川文一の詩集を、「全部さっぱり捨てました」。正しく痛恨の極みです。最終連は見事な結びとなっています。遺憾の一言に尽きます。

『人生』平田ミチさん。喜怒哀楽をテーマにした平易な詩です。上手くまとめています。結びが非常によろしいです。

(新井雅之)



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