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一行　　若林道枝

死にいくものを見舞い
もういいよ
誰にも感謝しなくても
謝らなくても
袖をからげて
雑巾をしぼらなくても
もう一生
あと少しの一生に捨てるもの
拾うもの
気にするな
 
隣の席で
子供がぐっすり眠っている
目をさましたら
こいつが立ち上がって歩きだすさ
何時だって紐のほどけた片端しか残っていない
それを集めて歩き出すさ
池の鴨の赤ん坊を見てごらん
水に溺れた鴨を見たことがないだろうよ
きっと
全く違った文明に口を尖らせながら
歩き出すさ
 
どうせがらくたの寄せ集めの
みんな花弁の数の違う
花園だ
たった一行分かっただけで
いいよ
欲をかかなくても

旅（４）　　シマダマサコ

ふたつ並んだ枕の

ひとつを除くと
ベッドは広くなる

広い白いシーツの孤独

群衆のなかの孤独

It’s easy to spot a loner
In the crowd

Isn’t it?

そして明日

わたしは再び
旅に出る

生きてる　　吉川冨士子

今日も又、元気に目覚めた
この老人ホームで
御先祖様にお水を供へ、灯をつけて
御あいさつ、
永年苦労を共にし、あの世に往った主人も
あの意地悪だった姑も
皆写真の中で笑顔をしてる
私も笑顔で、朝のごあいさつ
そして今日の無事を御先祖様に祈る
いろんな級（クラス）に参加して
時間一杯のスケジュール
暑かった今日も頑張った
この年でコンピューターも習ってる
俳句、習字は大好きだ、
カラオケも歌えるようになった、
限られた範囲内と体力で
精一杯頑張って
毎日を楽しく生きている

重い　　宇都湖畔

息子のいない世界を生きる
朝の空気が重い

いつ迄も生きると信じて
投げかけた言葉が重い

四十九日が過ぎたら
「軽くなるよ」と
友は云う

信じてジャンプしてみたが
うまく飛べない

旅先で
花の終ったあざみの群生をみつけた
花はふわふわの綿毛の化し
風に吹かれて
ひょい　ひょい　と
飛んでいく
我を忘れて綿毛の行方を追う
蜻蛉もつられて飛んでいく

いつしか私も浮いていた。


佛教では四十九日間今生の死と未来世の中間にいるという

汗　　内アリス

やわらかい陽光にさそわれて鍬を持つ
バザーで買った苗に畝を立てよう
大地にささる鍬の音は
心地よく風に流され
こぼれる土はよろこんで山となる

つややかな紫色のナス
トマトの赤い頬
じゃがいものさみしげな花
次々と私に語りかけてくる

体中の汗がふき出て
腰の痛さに天を仰ぐと
萌えはじめたばかりの緑がとびこんできた
やさしすぎる光線の中で
大いなるものに抱かれている実感がわいてくる

今年はじめて体をつたった汗だった。

入り口　　黒川彩歌

書けない　自分と
アイセナイこの胸の中
全てが　ランダムで　重なっては
どこかに　透けていく　還っていく
まるで此処が　どこか居てはいけない場所のような気がして　急かされては　リセットを繰り返す　あの日　私は入り口を絶たされていた　目をつむれば　其処は未来でもなく
過去でもなく　どこか　遠い記憶の隅だった