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ロサンゼルスの求人、クラシファイド、地元情報など

日刊サンはロサンゼルスの日本語新聞です。 記事は毎日更新、求人、クラシファイドは毎週木曜5時更新。

第21回 ポエム・タウン

<成人の部>


静かな夕べ  中尾照代


ビリッと紙を裂く
ビリッと心を裂く

負けないように
倒れないように
心の疼きに

知らずに済んだら
どんなによかったかと思う事実
誰かに話したくても
幾つもの関わりへの懸念があって
口にできない心の痛みを
紙の上に投げつける

書いた後から紙を裂く
その破片を涙が後追い
共に散る

窓から注ぐ
ほのかな月明かりを受けて
微風の動きだけが見える
私一人の静かな夕べ

家に帰る  シマダマサコ


いつ止めたのだろう

いつ生きるのを
止めたのだろう

あれほど押しの
強いひとがこうも
あっさりと

それとも深夜の
思いの末

そして横に
なったまま家に
戻り

うつすらと笑みを
浮かべて

悲しいね

と彼は言った

二人がいる  みちこ


三歳の孫の中に
ときどき
私が出て来る
年に一度の親せきの集まりで
じっとたたずんでいる
手を差し伸べられても
自分を守って開かない

三歳の恵実と遊んでいる時
恵実が私の中に入り込んでくる
ウァーター・ペイントを二人している
のに
一人でしているような錯覚を持つ
そんな時
二人は同時に笑う

「バアチャンと遊ぶのすきだよ」と恵実は言う
老いた女の中に
三歳の女の子の中に
私たちがいる
二人がいる

あの日の家  黒川彩歌


村には幾つかの窓
其処から流れ出た煙
小さな家の
小さな匂い
煙った中の家庭
人が居るようで
居ないような、其処
今日も流れ出る匂い

しかし、私は確かに其処にいて
ヤカンの火は確かに燃えていた
静かに帰りを待ちわびて
カタカタと蓋を鳴らし
ひっそり、と
私一人だけの匂いがした

幻聴  宇都湖畔


明日は来なくてもいいよ
ゆっくり眠るから
淋しくないから

無造作に聞いた
息子の電話
再び聞けぬと知る由もなく

半日もしたら目覚める筈のあなたが
五日も昏々と眠り続けている
どんな景色の中にいるのでしょう

いつの日も何処にいても
カラカラ元気に笑ってた

その日のままに
花に埋れたあなたの顔
今にもパッと目を開けそう

明け方
「ただいま」
元気な声が帰ってきた。

わが子へ  岩田かほる


ケイタイが普及して便利になったけど……

ケイタイの10ヶ条

1、 なるたけケイタイをはなれて 星を見て!
2、 なるたけケイタイをはなれて 姿勢を正して!
3、 なるたけケイタイをはなれて 人とふれあって!
4、 なるたけケイタイをはなれて 手紙を書いてみて!
5、 なるたけケイタイをはなれて 自然とふれあって!
6、 なるたけケイタイをはなれて 動物や空の鳥を楽しんで!
7、 なるたけケイタイをはなれて 土をさわってみてください!
8、 なるたけケイタイをはなれて 地球の景色を楽しんでみてください!
9、 なるたけケイタイをはなれて 美味しいものを作ってたべてみて!
10、 なるたけケイタイをはなれて 人に良くしてね!

どうか皆が楽しく健康に過ごせますように!

母さんより

学びの道  麻生三晴


赤いランドセルを背負って
桜の花のトンネルをくぐり抜けると
そこに学舎があった
薄いブルーのペンキも新しい
小さな田舎の小学校
七十年前のことである
そこから学びの道は始まった
最初にお世話になった庁山孝子先生
眼鏡の奥で優しい目が
いつも私達を見守っていて下さった
解らない事は手を上げて
ちゃんと質問しなさいと教えて下さった
二十人のクラスメイト達と一緒に
毎日何か新しい事を学んだ
楽しかった
あれから七十年
赤いランドセルはグレーのバックパックに変った
2Bの三菱鉛筆はボールペンに変った
教科書は英語の本に変った
でも私は今もバックパックを背負って
何かを学びに行く
数えきれない程大勢の尊い師に
覚えきれない程多くの知識を教わってきた
知らない事を学んで知るようになる
何と素晴らしい事だろう
学びの道はどこ迄も続いている
命あるかぎり
私は学びの道を歩み続けたい


選者のことば

『わが子へ』岩田かほるさん。お気持ちよくわかります。時代は変わり、子供の世代。便利だけど事の本質を忘れています。「ケイタイの10ヶ条」にまとめているところが、母から子への愛の贈り物に感じました。

『幻聴』宇都湖畔さん。「幻聴」とは夢の中の妄想なのでしょうか? 歯切れの良い運び、無駄のない言葉、鋭い感性。それぞれが綯い交ぜになって、深く読めば読むほどに胸を打たれます。

『家に帰る』シマダ マサコさん。最初の三行が作品の効果を上げています。「あれほどの押しの 強いひとがこうも あっさりと」を受けて、最後から二行の「悲しいね」が良く効いています。じっくりと読ませてくれる作品です。

『あの日の家』黒川彩歌さん。幻夢的な詩です。二連目の二行目からは巧みな表白です。

『学びの道』麻生美晴さん。七十年前の小学校の想い出を淡々と語っています。その語りは忠実で真剣で、いつのまにか癒されていきます。

『二人がいる』みちこさん。孫と一心同体の私。親せきの集まりに対してもかたくな。二連目の五行からと三連目の四行から、着眼点が素晴らしいです。

『静かな夕べ』中尾照代さん。最初の二行が心に響きました。最後の一行は推敲してください。

(新井雅之)



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