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日刊サンはロサンゼルスの日本語新聞です。 記事は毎日更新、求人、クラシファイドは毎週木曜5時更新。

第17回 ポエム・タウン

<成人の部>


花嫁  黒川彩歌


花嫁がこちらを見て微笑んでいた
花嫁は身重らしかった
花柄の臼ピンクのドレスから
ひらひら
花弁が飛んでいた

微かに赤ん坊の甘い匂いがした
幼年の人になる前の匂いだ

花弁が風に吹かれ
私は無数の命の香りを受け止めていた

幾重にも咲かせたその人を
私は美しいと思った

風に吹かれて世界から誕生の声があがる

花は舞う

二人の恋人  石口玲


私には 二人の恋人がいます
ほとんどはアメリカ、と言う懐に抱かれています
たまに日本、と言う恋人に会いに行きます
しょっちゅう行きたいけど、たまに行くことにしています
何でだか知らないけど、会うのを我慢したいのです
日本に行くと喧騒と人混みでクタクタになります
でも、しばらくすると人の激しい流れもスピードも心地良く
自分の育った、慣れ親しんだリズムを取り戻します
でも、チョッと長く居ると、アメリカに帰りたいなと言う気がしてきます
そして何となく後ろ髪を引かれながらアメリカに戻ってきます
帰宅すると、ホッとします
我が家は良いなあ、と思います
単一民族国家に生まれ、
同一言語と習慣の中で青春を謳歌した日本
そこを離れ
異人種、異言語、異習慣の寄せ鍋の中で四十年近くになりました
私は二つの大きな心をもらいました
日本からはおもてなしと優しさを
アメリカからは人を肌や性別や言語で区別しないことを
英語を媒体とした夫婦生活の中からも、多くのことを学びました
私を育ててくれた二つの国に感謝しています
私は今、とっても幸せです

終局  シマダマサコ


肉体が
無機質に変わるとき

喜び悲しみ

憎しみ
空しさをともに

棺を被う

白布が
熱気に舞い上がる

一瞬

ドアの落ちる

静けさ

流れ続ける  内アリス


流れねばならない
溜まっていては いけない
澱んでしまっては いけない

一滴 一滴 落とされる
墨汁の 黒
一体 何滴までならば
無色であると云い続けられるか

真っ黒な 無意の一滴を
一体 いつまで 
笑って受け入れ続けられるのか

私の力で
私自身の力で
必ず浄化しきれると云い続けられるか

流れねばならない
流れ続けねばならない
常に浄化し続ける為に…

私の日々  神野豊子


山と川のある里で育った
一人で育ったのではない
父あり母あり兄弟あり

春の日も夏・秋・冬の日も
自然はあった

心むなしい事もあり
わびしい 寂しい一人の一世
そんな老後を

今 生きつぎている

今出来る事 退職したから出来る事

花は何処までも素直に咲く
鳥や蝶を待つでもなし
日々を咲きつぐ今がある

私も今を生きる
今を生きている

五番街  若林道枝


五番街のセントラル図書館は
なにしろ古い
大きなお腹に当たる
空洞は
ヨーロッパのどこかの古い教会の
礼拝堂みたいに高く
エスカレーターでゆっくりと
地下4階まで下りてゆく度に
ここで大一番が揺れたら
どういうことになるだろうか
ひたすら
地殻の居眠りが続くことを祈る

裏側には世界の銀行が集まっている
いずれも天に至るビルで
大一番が揺れたら
ガラスの破片が空中を埋め
襲い掛かってくるだろう
キラキラと空を舞い
ゆっくりと
ちょうど停まっているモンテベロ・バス・ライン40番を
埋めるだろう

今柱の陰でしゃがんでいたホームレスがズボンを下ろしたまま
立ち上がって
新聞の折込み広告で尻をふいている
痛いだろうに
ぼろぼろにこわれてしまった命の営みを
黒いゴミ袋に詰めて
どこかへ行ってしまった

希望  中尾照代


希望が虹になったら
雨の後には美しいものが見えることを
知らせて
沈む人の心を励ますでしょう

希望が星になったら
幾つもの光の存在を知らせて
悲しみに閉ざされた人の心を
慰めるでしょう

希望がそよ風になったら
日々の労苦に疲れた人の心身を
優しく撫でて
安らぎを与えるでしょう

希望が月になったら
人を守る天の恵みを示して
暗い夜道を一人行く人の不安と
孤独を和らげるでしょう

大自然の中に様々な姿で現れ 
しきりに人に語りかけている希望は
太陽のように強くはなくても
きっと人を励まし 慰め 労り
力づけるでしょう

メロデーとデイドリーム  のぶとく


突然ラジオからメロデーが流れてくる
たった2秒いや3秒の瞬間
私はタイムトンネルに入ってしまう
頭の中に大スペクタルの映画が始まる
やはり多いのは私小説ラブストーリー
喜び給え失恋過多の経験者は
詩人や映画監督をつくる
そしてデイドリーマーになる
まるで天国の入口で鏡を見せられてるように
心臓は高鳴り喉は渇き
声が出ないかすれて頭が真っ白
悪魔が地獄に引っ張り込もうとするように

カーペンターズやビートルズが助けに来てくれる
やっと歌詞を理解出来たこの歳で
理解度は年令、経験や環境で違うと思う
死の歌と思う人愛の歌と思う人
同じ歌なのに
メロデーに感謝
舟木一夫の高校三年生が耳から離れない
同期の桜もシャルウイダンスも


選者のことば

「ポエムタウン」が始まってから、七月で三年目を迎えます。十月には「朗読会」と「ポエムタウン」の、三周年を祝う記念行事が執り行われます。
二〇〇〇年に『羅府新報』の「ポエムサロン」としてスタートしましたが、僕が病に倒れてから四年余り中断していました。新たに『日刊サン』の「ポエムタウン」として、再出発できたのでした。
そのきっかけは、詩誌『短調』の主宰者の若林道枝さんから、詩の投稿欄を再開してほしいと背中を押されました。あの一言がなければ、「ポエムタウン」は存在していなかったかもしれません。

『花嫁』黒川彩歌さん。想像をかきたてられる作品です。「花嫁」の描写にすぎないのですが、そこには、人を当惑させる気配が漂っています。二連目は会心のフレーズです。最後の行は推敲してください。

『二人の恋人』石口 玲さん。アメリカと日本を恋人にたとえています。作者の気持ちが清々しく伝わってきました。在米四十年近く、寄せ鍋の中で多くのことを学び、二人の恋人から大きな心をもらう。幸せにあふれている作品です。

『終局』シマダ マサコさん。終局の雰囲気がにじみでています。無駄な言葉がなく、朗々と綴られています。最後の二行が効いています。

『流れ続ける』内 アリスさん。歳を重ねるごとに、アリスさんは優れた作品を発表してくださいます。この感性と閃きはどこから来るのでしょう。四連目の「私の力で」は余分です。「私自身の力で必ず浄化しきれる……」としたほうが、説得力があります。どうしても四連目を三行にしたいのであれば、「力」の部分を変えてみてください。

『私の日々』神野豊子さん。現在の作者の気持ちを素直に表現されています。古里の想い出と、わびしい、むなしい老後を今生きています。自然に目を向けて、「日々咲きつぐ今がある」と悟ります。読み方によってはたわいない詩ですが、深く読むと達観した一編です。

『五番街』若林道枝さん。三連目は非常に良く描かれています。ホームレスの営みを巧みに捉えています。一連目と二連目は切れがなく、若林さんのいつもの調子と違います。

『希望』中尾照代さん。希望がテーマです。希望が虹になったら、星になったらと穏やかに、また慈しみ深く綴られています。最終連は結びにふさわしく、力強い希望となって完結しています。

『メロデーとデイドリーム』のぶ とくさん。何とも不可思議な詩です。『不思議の国のアリス』の一幕を彷彿しました。最後の五行は、ライト・ヴァースの手法を面白く巧みに表現しています。

(新井雅之)



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