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詩の窓辺・七回
ESSOのガソリンスタンド 小野十三郎
新井雅之ドラセナの鉢植のそばで
毒液みたいな
コーラを飲んでいた。
ガラス越しに
野末の太陽が見える。
いびつな冬の太陽は
吹きちぎれるような炎を噴いている。
とまったスポーツカーから
パタンと勢よくドアを閉めて
赤ジャケツ、黒眼鏡のあんちゃん一人降りてくる。
世界を背に
肩をゆすって
おれの方にやってきた。
「西の京へはこの道まっすぐか」
うなずくと
「ええんだとよう」
車の女に合図した。
女も黒いサングラスをかけている。
また、パタンと大きな音がした。
太陽もろとも
車は唐招提寺へまっしぐら。
山野辺の道に
ガソリンスタンド一つ。
小野十三郎(とうざぶろう)は「短歌的抒情の否定」によって、現代詩の成立を唱えた詩人として有名である。生前の小野は、人間を描くのが苦手であると語っていたが、『ESSOのガソリンスタンド』に登場する「あんちゃん」などは、実にリアルに描かれている。
晩年になって、小野は詩を書くこが益々楽しくなってきたと語っていたが、若い頃からスケッチ風の詩作を試みていたようだ。その代表格として、『ESSOのガソリンスタンド』を取り上げてみた。
平易な詩なので解説は不要である。小野の独特の詩のリズムが、読む者の心を捉えてはなさない。何の変哲もない、ひとつの状況のスケッチである。この詩の面白さは作者である「おれ」と、「あんちゃん」との対比にある。「おれ」は詩人であるのだが、無政府主義者の小野らしく、文脈には反社会的な「気配」が浮遊している。
小野先生と最後に盃を酌み交わしたのは、詩人、池田克己の未亡人が営んでいた天王寺(大阪)の、場末にあるおでん屋の屋台であった。また、近隣にある飛田新地の元妓楼料理屋『鯛よし百番』(登録有形文化財)で、小野先生を囲んで座談会をしたことが、ついこのあいだのように思えてならない。
一九九六年十月八日、日本詩壇の長老、小野十三郎歿。享年九十三。