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日刊サンはロサンゼルスの日本語新聞です。 記事は毎日更新、求人、クラシファイドは毎週木曜5時更新。

第14回 ポエム・タウン

<成人の部>


送り物  宇都湖畔


「あなたが去る日
置いて行くよ」と
残してくれた辞書
忘れられたように
埃の中で眠っていた

風のいたずらが
勝手にパラパラページをめくる
忘れた文字がそこにある
忘れた詩もそこにある
パズルのように
心の隙間を埋めていく
不思議な送り物

今、この辞書で
あなたの残した言葉を
探しています

アルツハイマー  のぶ とく


徘徊のたびに皆さんに頭を下げ
家族を泥棒あつかい
食事もくれないと言いふらし
下の世話で何年目
でも卵焼きを出すと
半分を皿に残し
紙タオルをかける。
一人息子の俺のため。
小学生の俺のため。
「大きくなって親孝行するからね」と
言われた思いで話をまた始める。
ボケてても愛されてる。
俺の古い写真をはなさずに

古い家族写真  古田和子


私がまだ数えの四歳で
幸せだった時に撮った
祖父母と父母
姉と私の家族写真

三十一歳のやさしい母を
まだ「うちの嫁」と呼んで
気ぐらいの高いお祖母さんが
威張っていたのを覚えている

この写真を見るまでは
母がこれほど美人だとは
思っていなかった

このふっくら美しい母が
毎日朝から晩まで台所に立って
美味しいご飯を作ってくれたから
私達一家は幸せだった
ということがはっきりわかる

声をたてて笑うこともなく
子供達にも分かった位
お祖母さんに気を使って
遠慮がちだった母

私は大きくなってから
もっともっと母を大事にして
恩返しをすればよかった
離れなければよかった

昼も夜も  山下さち


小さい家。
地位もない。
財産もない。
この世的には、
貧しい家族。

ところが、
喜びが心に満ちあふれ、
笑う、 笑う、 笑う、
おもしろいことを話す、お父さん。
それを聞いて、ふき出すお母さん。
その二人を、見て、ニッコリする、
障害者の息子。

この楽しさ、
この輝き、
この幸い、
この喜びは、
どこから来るのか。

命をあたえられた事に、
感謝します。
すべての事に、感謝します。

蝉  中尾照代


蝉が鳴いている
しきりに鳴いている
激しく鳴いている

でもあれは絶叫でもなく
怒号や警鐘でもない

ただ
今ここに生きていることの
幸いを
飛ぶ力 声を出す力が与えられて
周りを知り 周りの多くに知られて
生きていることの喜びを
はち切れる感激に震えながら
全身で歌い続けている

その存在の大小 長短などに
とらわれていない
自由な生命(いのち)の力強い賛歌だ

蝉の声が
空と大地に繋がって
広がっている!

おふろ  マリコ・ニールド


今のわたしの大きなねがい
大好きな(おふろ)にゆっくりのんびり入りたい
元気はつらつな時は(おふろ)に入りながら昔日本に行った時に買った(えんか)のテープをかけながらしみじみ日本のおんがくきくのがたのしみだった
ほんとうに日本の歌(えんか)はいいなあ~
日本の心と(きもち)をしみじみ歌っている
あの時はほんとうにしやわせだった
たとえどんなにつらいことがあってもおふろに1時間も入っていると心があたたかくなり いやされる
そして(しやわせ)なゆでも今はかなしいことに大好きな(おふろ)に入れないほどやせて体力もなく入れなくなってしまった
今はあたたかい(タオル)で自分の体をいたわるよおにふいてあげている
ほんとうにほんとうにいつか元気はつらつな体になっておもいきり大好きな(おふろ)に入りたい
そしておもいきりまるまる太ってじょうぶな強い体になりたいどうか(いつか)(かならず)(ねがい)がかないますよおに

ドン ペイ アテンション(don' t pay attention)  みちこ


朝の光りに明るいレストラン
三つ並んだテーブルの真ん中に
黒人の背の高い男が来て座る
身なりただしい
縮れ毛には白いもの
新聞を広げて何やら話しはじめる
彼の向かいにはだれも座っていない
ドン ペイ アテンション!
しかし、
止まることのない男の
バリトンの声と
笑いは
音としてそこら中にひびく
どうして
あんなに楽しそうに笑えるのだろう
独りきりで・・
ひとりの中に何人もの人がいる
男は 今「You」と
愉快な会話を楽しんでいる

他人(ひと)に笑いと泣きをくれた
ロビン・ウイリアムが
鬱を
病気を
酒や薬物に依存する全てを
男のように
吐き出して笑っていたら
生きる怖さを克服していたかもしれない

ああ
ドン ペイ アテンション!
ブロードウェイの
舞台に見るような屈託のない笑い
観衆は
とても
とても
しずか

迷い犬の離れないごとく  若林道枝


一人の子が
どんな悲しみがあったとしても
燃えている炉の火が
揺れている限り
迷いはなかったか

一人の子が
仕事台に向かって
親方のハンマーの落ちるところを
見つめる

来る日も来る日も
来る日も

親方が触れる
その力はどうだったか
角度は 火花はどう散ったか

一人の子は
いつか握りしめることになるハンマーの
予感を両手に握りしめて
親方の汗が美しいと
そこだけに潜っていく確かな場所が
いつの間にか いつの間にか
探しもしないのにたどり着いた
場所がある幸運を

一人の子が

流星  内 アリス


黒蜜ほどに甘く
ぽってりとした暗闇の中
いつ流れるとも知らぬ星を
ただ待つだけの生意味な時間
君の匂いを肩先に感じ
ほのかに漂う温もりの中でめぐらせる想い

いつか この身が
この地に取り込まれる日が来て
この魂に自由が与えられたとしても
君を支える大地となり
君をつつむ大気となり
ずっと寄り添い
共に在り続けよう
そして
この星が流れる日には
共に久遠の岸辺を求めて行こう

ほら ひとつ
また ひとつ
旅立を迎えた星々
それはまるで
悲しみを吐き出すための涙
万物の思いの丈を
内に秘めた宇宙のカタルシス

今 静かに君への想いを
願いと共に打ち明けよう
それが私のカタルシス
心に拡がる甘く濃厚な暗闇を
清々しく一直線に滑り落ちる


選者のことば

地球温暖化が進むと、晩秋の訪れがクリスマスの時節になるとニュースで伝えていました。
今年も、日本産の脂ののった秋刀魚を味わいました。季節感のない南カルフォルニアで生活していると、日本のそれぞれの風物詩を懐かしく思い出されます。
今回も「青少年の部」には投稿がありませんでした。日本語を学ぶために詩を書き、定型詩を詠み謳うことほど至適なものはありません。楽しみながら、励んで参加してください。

『送り物』宇都湖畔さん。状況が手にとるようにわかります。また清々しく描かれています。なぜ、「送り物」としたのか意図が見えません。単なる誤字なのか、あるいは深い意味があるのかわかりません。

『アルツハイマー』のぶ とくさん。この詩は面白いと思いました。推敲不足なのは残念です。もう一度、言葉を選んで整理して書いてみてください。

『古い家族写真』古田和子さん。家族の古い写真を見て思いがはせます。状況が切々と伝わってきました。四連目の「このふっくら美しい母が」と、結びの 「離れなければよかった」は、この詩の核となる表白です。

『昼も夜も』山下さちさん。この素直な詩に感動を覚えました。人生にとって何が一番大切なのか、改めて学ばされました。一家の大黒柱であるお父さんは、太陽よりも明るくて大きな存在です。お母さんも障害者の息子もめげないでいる、うららかな幸せ家族です。

『蝉』中尾照代さん。蝉の鳴き声を聞いているうちに気づかされます。喜びを、自由を、生命を、力強い賛歌であることを。蝉の声が永遠となって無限に広がっていきます。一連目と二連目の表現が、もう少し吟味が必要です。

『おふろ』マリコ•ニールドさん。作者の思いを胸一杯に感じとれました。お風呂のようなホンワカとした詩文で綴られています。大好きなお風呂に入りたいと言う願望が、痛く伝わってきました。元気になって、ゆっくりとお風呂につかれるように願っています。

『ドン ペイ アテンション』(don' t pay attention)みちこさん。現実と幻想と綯い交ぜになった情感を見事に表現しています。黒人男性の状況描写が光っています。「観衆は とても とても しずか」は、最高の結びです。

『迷い犬の離れないごとく』若林道枝さん。一人の子が親方を見つめ、成長していく過程が描かれています。リフレインが奏功しました。

『流星』内 アリスさん。この詩はよく書けています。特に書き出しの二行と最後の二行が幻想的で、読む者の心を幻夢へといざないます。すぐれた作品です。

(新井雅之)



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