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第14回 ポエム・タウン
<成人の部 俳句 入賞作品>
嶋幸佑選 振り向かぬ息子の背中に秋あかね 鈴木清司
佳作 ハーモニカ吹けば舞来る赤トンボ 詩月直竹
佳作 踊笠錆朱の紐を締めなほす ローペス文子
佳作 能演や酒杯に映す十三夜 生地公男
日刊サン選 月明かりしじまの道を影と行く 浅子 恵
TJSラジオ選 弦月やポストに落ちる恋の音 古賀由美子
ゲスト選者 小嶋立夏選 コスモスの倒れぬごとき君のよう 鈴木清司
成人の部 選者のことば
―選者・嶋 幸佑
今回はいつもに増して選考に苦労した。私が好きな物語性のある作品が多かったからだ。もち論、俳句としての趣は大切であるが、私は一句の裏に物語を感じた時、どんどん想像を膨らませてしまう癖がある。
「振り向かぬ─」。恐らく、息子とどこかに出かけた時の光景だろう。どんどん先を歩いていく息子。この息子は思春期に達している。反抗期なのだ。父親は息子を呼んだ。だが、振り向きもしない息子。その背中あたりに飛んでいる赤とんぼ(=秋あかね)。その赤とんぼは、作者が子どもころに遊んだ赤とんぼと重なる。その時ふと、ああ、こうして自分も父親から離れてきたんだなあという感慨が、浮かんできた。父親としての苦渋、そして、その苦渋を受け入れることによって得られる充足感。まさに、赤とんぼが作者の苦渋を受け入れさせたのだった─。と、こう私は解釈して、「なかなかの腕達者」と作者に感心した次第である。
「ハーモニカ─」にも、そんな物語の匂いがする。子どものころに吹いたハーモニカ。あれから何十年か経ち、再び手にしてみた。場所はもち論、どこかの野原である。そのうち、赤とんぼが飛んできた。あの時も赤とんぼが飛んでいたなーと、感慨に耽る作者。あの時はどんな時だったのか。その時どんなことがあったのか。そういうことをいろいろと想像させてくれる。そして次第に、読み手は読み手自身の赤とんぼを思い出そうとするのだ。吹いている曲は、言うまでもなく「赤とんぼ」である。
「踊笠─」は、今年の二世週祭のパレードで目にした一光景を詠んだものではないだかろうか。阿波踊りの踊り手たちの踊笠には、長い紐が笠の上の方から出ており、踊りの勢いでもびくともしないようになっている。錆朱色の紐に何か意味があるかどうか、私は知らないが、いよいよ出番になった踊子たちが、きりりとその紐を締めなおした。引き締めた踊子のすがすかしい顔も見えるようだ。紐を締めなおすという一瞬をドラマティックに捉えた佳句。
「能演や─」の作者は、長年俳句を詠んでいるのではないだろか。何をどう詠めば俳句として整うか、よくご存知の方だと思う。能を鑑賞しながら酒に舌鼓を打つ。そして、なにかいいことが近づいてきていることへの、どこか胸躍る気持ちが、十三夜という季語に見事に託されている。ここは十三夜でなければならない。
―選者・日刊サン
「月明かり─」を読み美しい満月の夜を想像しました。静寂な夜に自身の影と一緒に歩く姿を月明かりが照らし、とても優雅です。また、私自身もそういう中を影とともに歩いてみたいと思いました。とても優しい句だと思いました。
―選者・TJSラジオ
想い人に向けて筆をとる、そんな秋の夜空には弦月。その弓なりの月が恋のキューピッドの弓のようにも感じられ、また、したためた想いがポストに落ちるその音も、いとおしく感じられる、まさに秋の切なさと、ふんわりとした幸せ感がこの句に見えてきました。映画のオープニングのような期待感とロマンチックな瞬間を持つ、とても素敵な句ですね。
―ゲスト選者・小嶋立夏
冷たい秋風に吹かれても倒れずに力強く咲いているコスモス。きっとそのコスモスを大切な「君」に重ねたのだろうと思います。見た目は細々とし、繊細で、可愛らしいコスモが青空の下一生懸命に花開き、秋の澄んだ風に吹かれ、堂々とそこに咲いている。そんな様子を想像することができました。そして「君」に馳せる切なげな想いがジワジワと心に響きました。とても美しい俳句だと思います。
また全体的に夏の終わり、そして秋が近いということで少し切ない詩が多く見受けられました。また、紅葉や青空、風や夜の空気など自然を感じつつも身近な情景を描いている句が多く美しい景色が思い浮かびました。
<青少年の部 俳句>
嶋 幸佑選• TJSラジオ選•日刊サン選• ゲスト選者選 該当者なし
佳作 かぶとむしのぞいてみたらしんだふり サイモン•チャオ
佳作 ざりがにに釣り糸たらしにらめっこ レオン•チャオ
青少年の部 選者のことば
―選者・嶋 幸佑
青少年の部は応募が少なかったが、「かぶとむし─」にしても「ざりがり─」にしても、昆虫や魚など他の生き物と心を交わしている子供の心がすなおに出ている。
<日刊サン選 スポットライト俳句>
初茄子を色よく漬けて客迎ふ 内 アリス
ざわざわと風を通して花茗荷 野島弘子
ハチドリの挨拶に来る朝ぼらけ ワーレス信子
またしても父の帽子に赤とんぼ 麻生三晴
長き夜の渡米期ばなし向ひ鎚 鈴木ロジー
星空やふるるばかりの秋の月 ウィルソン千恵子
満月を我が狭庭にて独り占め 塚本 惠
秋晴れに将来憂ふ白寿かな のぶ とく
七夕の願いを詰めて紙足らず 那智高雄
金秋やプリズム少し曲げてみる 古賀由美子
俳句 ゲスト選者

小嶋立夏さんプロフィル
鎌倉生まれ横浜育ち。亜細亜大学国際関係学部多文化コミュニケーション学科3年生。専攻は比較言語学。趣味は音楽鑑賞、YouTube、スケートボード。9月に日刊サンにてインターンシップをする。