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日刊サンはロサンゼルスの日本語新聞です。 記事は毎日更新、求人、クラシファイドは毎週木曜5時更新。

第12回 ポエム・タウン

<成人の部>


春が嫌い  古賀由美子


外へ出てみれば 温かいような寒いような どっちつかずの温度
雨が降るのか降らないのか 空はさっきからまだ迷っている
花は咲くのか咲かないのか 曖昧な季節の中で 心を決めかねている
中途半端なやさしさは あなたに似ている だから春が嫌いなんです

駅で  シマダ マサコ


難さようなら とあなたは言った
さようならが 永遠に
なることがある
あの時 駅で
あなたは不意に
わたしの手首を掴んで 放さなかった
一秒二秒 四秒
行かないで
あの時の 微かな期待
驚きと眩暈を
わたしの手首は いまも
憶えている

新参者  石井志をん


6号鉢に植えられて届いた
頼りなく細い苗を
窓から見える庭の隅に植えた
少しずつ伸びて枝を広げ
根元に生えたひこばえ
それを切ったのは家人の仕業だ
大事なつるバラも切ったし
要らぬ事をする
でも今回はお手柄だ
おかげで苗木は育ち
ついに白い花を着けた
花は匂い
小さな実をむすんだ
痩せた土でも
梅の木は根を張った
私も新参者だった
ここがきらいだった
でもいつの間にか根をおろしていた

浦島太郎  若林道枝


庭一面に
奥さんの丹精した
浦島太郎が咲き乱れていた
その庭に何度足を運んだことか
二十年である
いつもやさしく迎えてくれた
本だらけの書斎には
炬燵がきってあって
一年中足を突っ込むことができた
時々ひょいと立って行って
本を次々に抜き出して
戦前の官憲が行った左翼弾圧の資料を
開いて熱心に当時の作家たちの
話をした
凄まじい汚れた暴力の時代だった
穏やかな春の庭には
浦島太郎が咲き乱れて
わたしの貧しい詩の雑誌を
恥ずかしい程買ってくれて
きちんと閉じた何十冊の束を
楽しそうに広げてみるのだ
何時も最後には
限りなく優しい声で
隠れている奥さんに呼びかけた
「お母ちゃん、お帰りになるでーーー」

傷を負っている人  中尾照代


そこで深く傷ついたために
家族への嫌悪を口にした人
幼い時から家庭に飛び交う黒い矢を受け
家族や親族の腐れをぶつけられ
痛めつけられて育ち 心を病み
一度は死にも手を伸ばしたという
「社会的には恵まれている家庭に見えていた
けど 実際はひどい状態で、、、いつも私は、、、」
口ごもり口ごもり身の上を話したその人は
もう傷に傷を重ねることに耐えかねて
外国に来たのだという
しかしなお家族への思慕を捨てきれないで
いることが 言葉の端々に
頬に流れる涙の中に光って見えた
外側からはあまり見えない
直面した人でなければその実態は知り得ない
人の世に散在する闇の力と毒の針
それが家庭にある場合
子供の受ける痛手はあまりに大きい
この社会からそんな犠牲者を
全くなくすことはできないにしても
なんとか
少なくすることはできないものだろうか
人類全体に及んでいる致命的な負の連鎖を
ドラマだけではない
ドラマ以上に悲惨なこの現実を
傷の疼きを抱えて目の前にいる人に
私はかける言葉が見つからなかった
そっと涙を拭うしかなかった


選者のことば

日系社会における美しい日本語の推進を掲げて、「ポエムタウン」がスタートしてから二年が経ちました。少し残念なことは、若者の詩の投稿が少ないことです。前回と今回は「青少年の部」の投稿がありません。「成人の部」においても、もっと、多くの方々に投稿していただきたいものです。手書きで投稿される方は、読める文字(楷書)でお願いします。また、メールで投稿される方も、なるべく大きな文字でお願いします。

『春が嫌い』古賀由美子さん。春のもどかしさに、あなたを重ねます。「中途半端なやさしさは あなたに似ている」。この二行が詩のテーマです。けだるさの中にあって、読後感はいたってさわやかです。結びをもう一ひねり工夫すれば更に良くなるでしょう。

『駅で』シマダ マサコさん。一コマの状況描写に過ぎませんが、映像を見ているような緊迫感を覚えます。実にリアルです。「驚きと眩暈(めまい)を」のところの「驚き」は、もう一度言葉を吟味してください。「わたしの手首は いまも 憶えている」。結びは決まっています。

 『新参者』石井志をんさん。全体に推敲不足です。いつもの調子でまとめてください。最後の連は上手くまとめています。

『浦島太郎』若林道枝さん。浦島太郎がよく伝わってきません。三連目と四連目は興味を引きました。良く描けていると思います。

『傷を負っている人』中尾照代さん。説明口調の散文詩です。悲惨な過去の状況を聞かされて、なすすべもなく涙します。しかし、この詩を書かなくてはならない意図が見えてこないのです。切迫感も不足しています。もう少し整理してみる必要があります。(新井雅之)



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