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日刊サンはロサンゼルスの日本語新聞です。 記事は毎日更新、求人、クラシファイドは毎週木曜5時更新。

第11回 ポエム・タウン

<成人の部>


幕  石井志をん


面白い本が
間も無く終わる
佳境に入って間も無く終わる

本も私の命も同じことだ
あと幾ページ有るのだろう

ある日
はいもうこれでおしまいと
幕になるのだろう

やりかけた事が山ほど有る
行きたい所も見たい物も
山ほど有る
マチュピチュにも
ニューヨークにも行きたい

それよりも
友からの便りが無い
倒れたのかもしれない
幕が降りる前に
逢いに来いという合図かも

もう十分に逢って
満足したはずなのに
でも
まだ別れの言葉を言っていない

箱  フィツジェラルド ナヲ


難解な言葉が
パズルか
記号のように
詰っている
重く大きい
厳めしい箱
日常使っている
有り触れた言葉が
母のお乳のように
優しくふっくらと
入っている
匂いやかな小さな箱
私は探そう
こちらの箱を…。

妄想捻挫  古賀 由美子


脳天気でガサツに見えるかもしれないけど
私ってもしかしたら
自分で思っている以上に繊細なのかもしれない

直球はいつでも苦手
オブラートでくるんだ生き方がいい

血を見たくない
人が不幸になる話は苦手
できればみんな幸せでいてほしい
うんと大きな幸せでなくても

私がただ座っているだけで捻挫をしてしまうのは
明日に怖気づいてるせいかもしれない
歩けないのじゃなくて歩きたくない
本当に痛くて歩けないのに
仕事で困ったらいやなのに

私の心のどこかで逃げたい気持ちが
妄想捻挫を起こさせるのかもしれない

これ私
ストレスと面と向かって戦わなくてもいいから
臆病な心からはちょっとだけオサラバしようじゃないか

これ私
少しがんばれ

老い  シマダ マサコ


若い頃から

死について語り合った
けれど

死は言葉に過ぎなかった

昨日あなたの
路を歩む姿を見た
とき

病のあとの

風によろめく
老いの姿

明るい
ひかりの中

死はすでに

角の向こうに
立っている

春の喝采  内 アリス


うらむこともせず
うらやむこともせず
生きていたらいい

うらまれて生きたくはない
ただ
うらやましがられて
生きてみたいと
少しだけ思う

生きることはつらく
生きることは悲しくて
生きることはしんどい
そんなことを思うのは
きっと人間だけで

溶けてしまいそうなほど淡い空を
まっ黄色な蝶々が二匹のぼっていく

翅をパチパチとならして
春がきたことに
生きていることに
感激して
スタンディングオーベーイションしている

黄色い落ち葉  中尾照代


ひよこたちが走って行く
はしゃいで一緒に走って行く
並んで並んで
お母さん鳥は秋の風

私は振り返って足を止める
どこまで行くんだろう
行った先でどうするんだろう
「そんなこと考えてないよ
お母さんと一緒だから大丈夫だよ」
そうだね 子供だもんね バイバイ

それから私は
もうひとつの秋の風に追われて
時計を見ながら家路を急いだ

ムシカリ  内 アリス


ブナの芽吹きに先だち
ムシカリの木は枝先に
小さな五弁の花を集め
飾り花となったガクに守られ
白くく明るい開花で虫を呼ぶ

ほのかな匂に誘われ
枝をひき寄せる
それは
授乳時のややの匂と重なり
思いがけず遠い日の
乳の谷間に思いが走る
小さな両手で挟む乳
吸いつくくちびる
乳の出が鈍ると また片方へと
誰に習ったわけでもないのに夢中で
母から娘へ
娘もやがて母となり
送り継がれる時のなか
細い血すじの通過点
光と影が織り出す いのちのみち

緑ふかまるブナの森
木洩れ陽を拾い
丸く大きくなるムシカリの葉
葉脈は くぼみ シワシワに
こんな葉が大好きな虫がかじる
葉は黙ってかじられている

晩夏のムシカリ
ブナの木蔭での営みは
目立つ眞赤な実を結び
鳥たちにつつかれ 呑み込まれ
新たな 旅立ちをする種子


選者のことば

『羅府新報』のころから数えると十一年間、詩の講評を担当したことになります。最初のころは、秀作が二、三編でしたが、今や「青少年の部」と「成人の部」を合わせると、秀作は十編以上に増えました。嬉しい限りです。昨年の暮れから、ポエムタウンのことを『LA詩壇』と呼んでいます。年を重ねるごとに、作品には驚きと発見があるのです。少し残念なのは、「青少年の部」の応募が少ないことです。ピアノ教室、絵画教室は盛んですが、文芸(詩)にも目を向けてもらいたいものです。

『幕』石井志をんさん。「面白い本が/間も無く終わる」と述べて、自分の思いを、生命を淡々と語ります。「面白い本」が、詩全体の効果を上げています。やり残した思いがよく伝わってきました。また、結び方も「幕」にふさわしい言葉になっています。

『箱』フィッツジェラルド・ナヲさん。前半の六行が輝いています。後半の八行もよいのですが、更に推敲すれば、観念のなかにある幻影がいっそう際立ちます。

『妄想捻挫』古賀由美子さん。先ず、題名に惹かれました。自らの人生観を伝えた後で、四連目と五連目に、「妄想捻挫」についての披瀝(ひれき)が描かれています。六連目は非常によく表白しています。

『老い』シマダ マサコさん。会心の作と言ってよいでしょう。無駄な言葉が一切ありません。「老い」のイメージが、鮮明に描かれています。結びは余韻嫋嫋(じょうじょう)として、素晴らしいと思います。秀逸に値します。

『春の喝采』内 アリスさん。時節は春、はじめに己の人生観の心情を吐露させています。目の前に広がる春たけなわに、感謝して喝采をおくります。最後の二行は言葉を選んでください。

『黄色い落ち葉』中尾照代さん。巧みな暗喩の詩です。始めの四行目と三連目の二行目に、隠喩のキーが隠されています。何とも奇妙で不思議なメタフォアな詩。これも秀作です。



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