Whale Watching 2019

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日刊サンはロサンゼルスの日本語新聞です。 記事は毎日更新、求人、クラシファイドは毎週木曜5時更新。

第5回 ポエム・タウン

<成人の部>


紙ひこうき  みちこ


きもちが泳ぐ
風邪のせいだろうか

ぼんやり本を開けた

そこに
紙ひこうきがあった
いかひこうき
やりひこうき
へそひこうき
何かが白く光る

原っぱが見え
風が走り
息子の声が聞こえる

一枚一枚折ってみる
歓声をむねに聞き
足は草原を蹴り
飛んでいた

後遺症  古田和子


[手を貸して]と夫が呼んでいる
「ポッサムが住んだり洗い熊が住んだり
パティオの奥の隅っこが
汚れているからきれいにしよう」

その声で突然戻って来たのは
数年前までの私たちの生活
「手を貸せ」と呼ばれる度に協力した
印刷仕事に明け暮れた毎日

夜中になるまで緊張の立ち仕事
印刷機の機嫌を損ねないか
どこかにミスが忍び込んでいないか
ラジオもかき消す機械の騒音

したい事も考えたい事もあきらめて
えいっと自分を抑えたあのつらさが
「手を貸して」と言われたとたん
三十年分さあっと戻って来て私を呑んだ

後遺症は意外に深く重かった
単なる庭の掃除なのに
庭の掃除は嫌いじゃないのに
私はとうとう手伝わないで

この頃とても優しくなった夫が
一人で丁寧に掃除をしている姿を
ただ窓から見ていた

この人に今は甘えてもいいと
なぜかそう思いながら見ていた

限りある言葉  若林道枝


常に言葉を訂正される
異国に住んで
五十年

長かったか短かったか

常に訂正する風は
言葉を乾燥させた
乾いてこびりついて
剥がれて
ひどく軽く
血の中へは沈みはしない


猫に言葉を教えたことがある
シンボウ強く
朝も夜も顔を見れば
繰り返し
腕に抱え込んで教える
教える
ほんの一言二言
覚えたか
コトンというと
腕の中でことんと眠る

オンモ、マンマ
猫語と人間語とを繋ぐ
情感を頼りにすると
たちまち噛み付かれ引っかかれる

オデッタ  石井志をん


里には杏が咲き、山には清流が泡を噛む
海からも近い桃源郷に私は棲む

ひさしぶりに街に出かけた

シティガールにならって
信号をさっそうと渡りきる筈が
一段ふみはずして派手に転んだ

息も出ないほど痛くて
起き上がるのは暫く無理
あわてて何かを拾うふりも出来ない

地面についた私の手の脇を女物の靴が通り過ぎる

ヴェトナムやカンボジアから来た人の目は
残酷を多く見すぎたので
空洞になっているのだろうか

中国人は日本人の小さな事故を
ざまーみろと思うのだろうか

「だいじょうぶですか?」
心配そうに私を見るのは
オデッタみたいに素敵な声の人

アメリカで育った人は
礼儀正しくやさしい
虐げられた歴史を持つというのに
黒人の女性は
この日のアジアの女よりずっとやさしい

月のひかりが恋しくて  西岡徳江


老犬の折れた片耳ピクと立ち
夜のしじまを突き破る
今宵ケモノとなって吠える犬
おまえは何を聴いたのか

しっとりと月のひかりがふってくる
音もなく三つの固体に注いでる
父さんに
母さんに
そして
わたし 子鹿に

あまやかなチューリップの香りに誘われて
ツンツンと伸びる木の芽が呼ぶからに
ふわふわと漂う風が触れるから
人間が眠りについた夜を出る

しっとりと月のひかりがふってくる
こんな夜の
月のひかりが恋しくて
月のひかりが恋しくて

被災地の風  グレイス中尾


あの日
3月11日
大切なものをすべて失ったあの日から
月日は二年過ぎ去ったけれど
言いようもない悲しみと
深い傷と
疲れた体の痛みは
今も過ぎ去っていない被災地の人々に
早春の冷たい風が吹きつける

「風よ そんなに冷たく吹かないでくれ」と
木々が懇願する
風は震えながら答える
「私もあれからずっと悲しいのです
悲しみで身も心も冷えきって
どうしようもないので せめて
みんなと一緒に泣きたいのです」

木々は風を促す
「泣いてばかりいても
心が濡れて弱るだけだから
もう泣くのはやめて
とびっきり暖かい春一番が
この被災地に早く来るように
みんなに希望の光を運んで来てくれる
ように頼みに行ってくれないか」

風は大きく頷いて
静かに走り出した
暖かさの方角を探しながら

手  工藤紀美子


小さい手
赤んぼうの手
子供の手
成長して行く手

その手に託す
秩序ある社会
平和な社会

世の荒波を
苦労して泳ぎ
光をみつけて
明日を掴む手

天狗にならず
考える華であれ
希望の光となれ

閉じる  宇都湖畔


読みかけの本を閉じるように
無雑作に
七十五年の生涯を
自ら閉じた
あなたの強さを思う

時代にも
世間にも
抗議せず
過酷な自然の中で
一途に土を愛し
黙々と働き
頭を垂れた稲穂の中に
こぼれる笑顔のあなたを見た
あの日のあなたを忘れない

春はもう
そこ迄来てたのに

遠い日の街  安達瑶子


ずっとずっと遠い昔
星は今より くっきりと光り
ずっと近くに瞬いていた
わけても冬の夜は
寂しげで饒舌だった
月は星の群を率いて ゆったりと
向い側の家の大きな倉の上へ
登っていく そして
倉に添うように佇つている
楠の木の梢にかかり
更に空の高みへと移っていった
騒音も排気ガスもなかった時代
空はいつもかーんと澄んで
夕日はきわやかに 長く
電柱の影を曳いていた
街には古くて大きな家々が並び
ひっそりと冷えて 音もたてずに
昼も夜も眠っていた
たまに音の暗を襞くように
犬が鋭い声で 昼は通りへ
夜は白い月に吠える
冷えしきる冬の空を びかりと
流れる星 またもう一つ
濃い暗をくる
遠い昔、あの頃の夜の
穏やかで淡い時間が 浮いてくる
セピア色の 家族写真のように

或る日の午後  内 アリス


白く広がる田原をよこぎり
線を引くように開いた小川
その小川の淵に立つ一株の柳
淵を洗う川面は光る

珍しく照る太陽
其の陽光を受けて
出たばかりの猫柳
にぶく映える銀色の光り

蒲原平野に吹く南風
早春やよいの昼さがりは
ほほに痛く耳に冷たく
照返す白雪の輝きは眼を射る

屋根の木立は樹骨のままに
まだ深い眠りから覚めない
野面を埋める雑草の芽も
いつ葉先を出すのだろう

春は遅しと待つ心
北限近き人のあせりを
知るや知らずや今年の自然
午後の陽ざしは かげりが早い

日刊サン選・ポエム
今回は、東日本大震災に関連した詩を募集しましたが、思いがけず、ロサンゼルス訪問中の福島県相馬市にお住まいの方からご応募をいただきました。ここにご紹介します。

無題  鈴木幸美


氷は溶けたら水に
雪は溶けたら春になる
迷った時 結果は同じ
水になる氷と雪だけど
選んだ道に進む
プラスで考えて
もう折り返しの50代
朝の来ない夜はない
今まで経験を生かして
生きていゆく


選者のことば

「紙ひこうき」みちこさん。構成がしっかりとしています。書き出しも極めて良いです。四連目で現実の声を聞き、結びでは願望を抱いて飛んでいきます。秀作です。

「後遺症」古田和子さん。夫の声を聞き、にわかに襲われる過去の苦労。最後の三連は「後遺症」が見事に描出されています。

「限りある言葉」若林道枝さん。興味深い詩です。「常に言葉は訂正される」。「常に訂正される風は」ときて、「血の中へは沈みはしない」。説得力があります。結びが良く効いています。

「オデッタ」石井志をんさん。読者の心を捉える詩です。まず言葉の選び方がいいです。書き出しも、結びもすべて佳良です。

「月のひかりが恋しくて」西岡徳江さん。吟味された言葉に張りがあります。特に最初の一行と、二連目、三連目が、きりりとしていて巧みです。結びのリフレーンが気になりました。

「被災地の風」グレイス中尾さん。被災地の皆さんを、木々と風の対話で励まそうとする詩。「暖かさの方角を探しながら」。最後は余韻を感じさせます。

「手」工藤紀美子さん。箴言のような詩です。無駄な言葉もなく、簡潔にまとめています。四連目は推敲が必要です。

「閉じる」宇都湖畔さん。非常に説得力ある詩です。絶妙にまとめています。書き出しの表現が巧みで、結びも完璧です。

「遠い日の街」安達瑶子さん。考え過ぎの感が伺えました。肩の力が入りすぎのようです。推敲しすぎてもいけません。詩に取り組む姿勢は鋭意です。

「或る日の午後」内 アリスさん。いつもの切れがありません。「線を引くように開いた小川」は、効果的な表現です。「驚き」と「発見」を心がけてください。

(新井雅之)

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