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ロサンゼルスの求人、クラシファイド、地元情報など

日刊サンはロサンゼルスの日本語新聞です。 記事は毎日更新、求人、クラシファイドは毎週木曜5時更新。

第4回 ポエム・タウン

<成人の部>


音楽堂も楽器  安達瑶子


ダウン・タウンのビル街の
コンクリート・ジャングルに
極立ってユニークな建物がある
それが新しいD音楽堂(ホール)だ
不協和音的な外観は現代人の
不安定な身体感覚にぴったりな上
落した針の音さえ聴こえるほど
音の透明度は高い
昔のように視覚的で音を吸う
装飾過剰な劇場に比べると
なんというすっきりした音響だろう
先鋭的で斬新な現代音楽に
これ程ぴったりした器はない
だが此処での「第九」の演奏から
天上の声を聴いたと言う人もいる
“歓喜の頌”が堂を貫くとき
この音楽堂(ホール)は清冽な響きに高鳴り
繊細な楽器となる

つつじ  内 アリス


朝のひとときに
いつも心を安める一ヶ所
そこには
手が届きそうなつつじが輪をえがいている
花の季節がおとづれると
一万ワットシャンデリアを据えたように
ぼたん色がしたたり競う
疲れもわすれて
明るい方に一回転した心で
「ごくろうさま」とまぶしさに向っていわせてもらう

晩秋の空に雲は走り
葉ずれの音が妙にしみるよ
愁いをふくんだ重い心は
木枯らしに冷えびえ揺れて
プツンと切れて飛んでいきそう
台所のかたづけをおえて
コーヒーを片手に
重い腰をおろした
今朝も灰色の空か・・・・
冴えないなあ・・・・
会えない人のうっぷんを
うなる電線になぞっていると
傍で一つ心が揺れていた
はげしい風雨でちぎれそうなのに
新しい葉をピンと天にのばし
語りかけてくる
大輪の息づかいが
私に向かってくる
瞬間
人生のたそがれのような住人が
私の心から
こそこそ逃げていった

ヘイヘイ ボンボン  鈴木ロジー


平凡に生きていくことが
難しい今日この頃
神さまにおたずねします
アイドン・ノウ ホ・ワーイ
自分の運命(さだめ)に逆らうな
ヘイ、ヘイ、ボンボン
ヘイ、ボンボン
地味派手に暮しも勝手
誰に遠慮がいるものか
イエスさまに伺がいます
アイドン・ノウ ホ・ワーイ
不平不満いつも言わない
ヘイ、ヘイ ボンボン
ヘイ、ボンンボン
世渡り上手と下手は
紙一重と言うものの
ほとけ様どうすりやよろし
アイドン・ノウ ホーワーイ
二度とない今日大事にせよ
ヘイ、ヘイ ボンボン
ヘイ ボンボン

ハミングバード  石井志をん


私の名はマルタ
ちいさなハミングバード
聖書が
「空を飛ぶ鳥を見よ、野に咲く花を見よ」
いろはカルタが
「果報は寝て待て」
あくせくするなと語りかける

私は選りに選った
自ら求めた
寝てる暇は無かった
もう一歩、行けるところまでと歩いた

だが
貧しい小さな頭脳に快楽等は夢のまた夢
空中でのホバリングを止めれば真逆さまに落ちる


栄光

どれも近寄っては消える蜃気楼だった

私が働かなければ
食卓は最低の形すら整いはしない

マリアはあいかわらず
リップサービスで
神様のご機嫌を取るばかり

マナは何時降るのか

蜜を求めて花から花へと飛ぶ
私の名はマルタ
ちいさなハミングバード

感 慨  石口 玲


ロスに来て、 三十年以上も経ちました
いろいろありました
一人で寂しい思いをしたことも
ブラボー! と大声を出したことも・・・・
そして、友達がたくさん出来ました
日本人にアメリカ人、メキシコ人にフィリピン人に中国人
数えられません
これが私の宝です

素晴らしい出来事もありました
あの人に出会い
二人で山を登り、春の息吹きを感じ、
空の蒼さも、山の高さも
潮風の心地良さも知りました
砂漠に出かけ、冬の砂嵐にもあいました

悲しい出来事もありました
あの人は遠くへ旅立って行きました
癌との壮絶な闘いでした

そして友人達の励ましと助け
今は亡い両親の大きな温かさと、
妹や弟の優しさも・・・・

泣いたり笑ったり、怒ったり悲しんだり
今やっと感謝って何なのか、少し解ってきました

前より心に宝が増えました

私は今、『充足』を感じています

『道』も少し見えてきました

この道を真っ直ぐ歩いて行きます

卒業生へ  工藤紀美子


春風がやさしくほおをなで
木々も雑草も芽ぶく今日
別れの日
明日は君らのもの
自由と責任を持ってはばたけ

狭き門の向こうは嵐なり
しかし それに負けるな
つねに考える葦であれ
人を上から見るな
誰れにも良さがある
誰れにもやさしさがある

明日は君らのもの
社会の一年生
背のびすることなく
元気ではばたけ

夕暮れの大風  中尾照代


多くのものが一日の業を終えて
休息に向かう時刻に
大木の枝が
大量の葉を激しく揺すり出した
異常なざわめき
どうしたことか・・・

人の目には定かでない
誰かのひどい不徳と偽善に対する
天空の怒りを聞いて
身震いしているのだろうか

利得と快楽を求めて
無思慮に動きまわるものたちのことを
ひどく嘆いているのだろうか

すました顔の奥に隠した刺にさされて
涙を流している人に代わって
泣きじゃくっているのだろうか

近づいている嵐の到来を
しきりに警告しているのだろうか

ざわめく大木の真意をはかりかねている
目と耳と伸びる背骨に広がる不安を
さらに掻き立てるように
迫りくる闇を受けて
大木が怪物のような姿で呻き声をあげている

慟哭  みちこ


山がゆれた
ウワァーウワァーと
大口あけて
人をはばかり
場所をはばかり

あのシーン
 このシーン
あのことば
 このことば
あの思い
 この思い

全てを流すため
人をはばかり
場所をはばかり
大口あけて

ヒックヒック
肩を震わし
鼻をかみ
もがり笛が
通り過ぎていく

内なる世界  ユキヒコ・ニシジマ


眼を開けても
見えないものもある

眼を閉じても
見える顔がある

聴こうとしても
聞こえぬ言葉がある

聴こうとしなくても
聞こえる母の声がある

其れは心の眼をとうし
其れは心の耳をとうし

あなた方一人一人の
内なる世界

大切に


選者のことば

『音楽堂も楽器』安達瑶子さん。D音楽堂の描写が良く描けています。最初の三行は、表現を変えることをおすすめします。最後の三行も推敲することによって、一段と優れた詩に一転します。

『つつじ』内 アリスさん。前半は上手く書けています。二連目で終わる方が良いように思いました。三連目は表現に工夫を凝らしてください。

『ヘイヘイ ボンボン』鈴木ロジーさん。「ヘイ、ヘイ、ボンボン ヘイ、ボンボン」。このリズム感が、生き生きとしていて愉快です。リフレインとリズムは、ともすれば不首尾なることが多いのですが、この詩は成功例だと思います。

『ハミングバード』石井志をんさん。マルタとマリアは新約聖書に出てくる人物。マナとは食物のことです。三連目が心に迫ってきました。初めと結びが推敲を必要としています。

『感慨』石口 玲さん。正しく感慨です。素直に淡々と語られる純粋な心に、深く感銘を受けました。

『卒業生へ』工藤紀美子さん。卒業生への思いを込めて綴られた詩。教師の切なる願いが表白されています。

『夕暮れの大風』中尾照代さん。政治とか世の中に対しての風刺を感じます。大木の挙動に暗示を求めているようです。結びの二行が切迫感を強く与えています。

『慟哭』みちこさん。四連目が非常によく書けています。もがり笛が効果を上げています。慟哭のイメージが弱いのが少し気になりました。

『内なる世界』ユキヒコ・ニシジマさん。簡潔明瞭な表現です。言葉の一つ一つが、すんなりと頭に入ってきます。不思議な「内なる世界」を投げかけた詩です。

(新井雅之)



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