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ロサンゼルスの求人、クラシファイド、地元情報など

日刊サンはロサンゼルスの日本語新聞です。 記事は毎日更新、求人、クラシファイドは毎週木曜5時更新。

第3回 ポエム・タウン

<成人の部>


その人  上田正江


45年ぶりの再会
駅の改札口で待ち合わせ
夢の中まで出て来たその人
その人が来る
電車の中から大勢の人に紛れて
その人が来た
唇を真一文字に結んで
その人が出てくる すぐその人と分かる
恥ずかしそうな笑顔が少し緊張している
あっという間にタイムマシンで45年前の小学時代へ
小学5年生の時だった
その人から何を習ったか私たちは何も覚えていない
授業をつぶし、それを歌の時間にしてくれた
掃除の箒(ほうき)がギターになり、 バケツがドラムになり、
クラスじゅうが大騒ぎ、楽しく過ぎた時間
原爆の歌、松ノ木小唄、なんでも歌わせてくれた
45年過ぎた今も 忘れることのできない授業
特別に私が大事にされたわけじゃない
でも、生徒一人ひとりを分け隔てなく見守ってくれたその人
大事な恩師、良き師、先生、その人が出てきた
生きていてくれて ありがとう
いつもまでも長生きしてください。

蜂  グレイス・ナカオ


色とりどりの造花が並べてある庭の隅に
目立たない色の生の小花が咲いている

蜂が寄ってくるのは生の小花
本物そっくりのみごとな造花には
見向きもしない
そこに命も蜜もないことを
蜂は感知している

土も草も木々も虫たちも
風も雲もみんなそれに気づいている
気づいていないのは
造花に見とれる人の目だけかもしれない

癒し  宇都律子


幸福な人の愚痴を聞く
口元は楽しそうに
歌うように動く
貧しさに縁遠い人故に
愚痴さえすんなり宙を舞う

私はどこで吐きましょう
花は余りにも美し過ぎる
海はその都度
色を変へ隙がない
故郷はあまりにも遠い

憑かれたように
墓地の風を吸いに行く
「いつでも帰っておいで」
父母のささやきを
風が運んで来る

金はいらない  東谷英一


だれだったか、
すばらしいものに
金はいらないと言った人は。
朝6時
ドアを開けて外にでる。
傍らに犬
5分の一ほど
容積を失ってしまった肺に
さわやかな空気が入り込む。
「神様ありがとうございます。」
今日も生かされて
あります。
朝日を浴びて
黄金色にかがやく街路樹。
だれだったか、すばらしいものに
金はいらないと言った人は。
たしかに、
紅葉見に
カナダまで行くこたない。

色  内アリス


とうに見失った色を探し
思いがけず風にめくられた紙の
切り立つ白さ
紙との対話は
色を手掛かりとし
心の時差を
伸びやかな姿で水を切る

水中カメラはよどみなく
光の乱反射を捕え
静止画像のたまむし色

曲線も直線も
水と共有する豊かさで
胎内の浮遊のように
時をめぐる水の色

人との接点は
配色に心を砕く優しさと
控え目な紺の色使い

めぐり来る季が運ぶ
風の色
落日が波に描く
まばゆい色使い
心に染め抜く空の色

色  内アリス


よれよれのアパートの脇を
身を竦めて通る
どこでどう間違えたのか
華やいだ表通りとは全く別の一角
怖しく荒んだ通りへと迷い込む
宙(そら)からみれば表通りも裏通りも
そう隔たりのない空間なのだが
秋の夕空はますます高くなり
乳色の雲はほのかに紅くなる
そんなひと時だけ この一角は明るむ
だが この街にはスカイ・トリー近くの
「三丁目の夕日」や懐かしさはない
ここにあるのは寒々とした
ささくれた暮しと溜息
ないのは愛 尊厳 政治 笑い
同じ人間の暮らしなのに
ここは芯から裏通りだ

宿  若林道枝


死者たちは
多くの、あるいは少しの欠片を
残して
私の中で生きる、息づく
まだ死んでいないので
絶え間なく形を変え
身動きする度に
欠片の
もう溶けかかって輪郭もない
思い出たちのたてる音

今日の強い太陽は死者たちを照らすのか
寝返りを打つ者たちの気配

私の腕のなかで死んだものはないのは
何故だろうか
皆顔を背けて
電話の向うで
ひっそりと生を終えた

初恋の頃の街角から
あんなに清らかなバラ色の街角から
この重い死者を溜め込んだ
角も曲がれないほどに溜め込んだ
重い思い出の捨て場所もなく
ため息のように
一夜の宿を探す

初秋の浜辺  ユキヒコ・ニシジマ


大好きな10月の海よ
あの狂おしくもなつかしい
真夏の移り香が今もそこにある

でも

独り座するこの浜辺には

小走りに波の打ち引きと戯れる浜千鳥
キラキラと大海に身を委ね込む真水のセセラギ
フット思い起こしたように砂浜を駆け抜ける子風
そして光、時間

僕に与えられたものは彼らだけ

好きなように笑おうが、
涙が涸れるまで泣こうが
誰の目にもとまらない

あんなにも激しく抱き合い、愛し合った二人の夏の日々が
今は冷たい秋の空

深く、深いブルーの海は
夏の終わりのカーテンコール

ユダ  森久美子


その男は今日も其処に座っていた。
背中を丸めて ひざを折り、太い、節くれだったゆびを空へとまさぐっていた。
男の頬は冷たく、顎は蒼ざめていた。
男は自分の胸ぐらを拳で打った。
男の口の中へ、すっぱくて苦いものが込み上げてきた。
それでも男は気に留めなかった。
ひと呼吸おいて、もう一度打った。
それは自分の分と、愛するものへの分。
膝から 足から 足の裏から 土に溶けてしまう幻想に酔った。
暑いのか 寒いのかさえ今は分らない。
やがて辺りは灰色を帯び、ながい ながい 夜がやってくる。
男は しずかに 目を閉じた。


選者のことば

『その人』上田正江さん。大切な思い出ですから、最初の十行は、もっと緊迫感がほしいです。結びも新味がないです。しかし、興味深く読ませていただきました。

『蜂』グレイス・ナカオさん。しっとりと考えさせられる、格言のような詩です。切実に感じました。

『癒し』宇都律子さん。作者の心情がよく表白されています。心に迫るものを感じました。

『金はいらない』東谷英一さん。最初の九行がうまく書けています。「だれだったか、すばらしいものに 金はいらないと言った人は」この言葉が効いています。

『色』内アリスさん。現代詩を読んだことがない人は、やや難解に感じるでしょう。しかし、よくまとめています。最終連は読み応えがありました。

『裏通り』安達瑤子さん。作者の複雑な心情を吐露させた詩。状況が目に浮かぶようです。見えないテクニックが光っています。

『宿』若林道枝さん。四連目は非常にうまく表現できています。一連目はもう少し推敲してください。テーマが重いだけに、描くのが難しいですが道枝さんならできます。

『初秋の浜辺』ユキヒコ・ニシジマさん。状況がよく描けています。後半は夏の思い出。推敲することによって、完成度の高い詩へと一転します。

『ユダ』森久美子さん。イスカリオテのユダを想像しました。男の気性がよく描けています。また、男の汗と匂いを感じました。

(新井雅之)



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