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日刊サンはロサンゼルスの日本語新聞です。 記事は毎日更新、求人、クラシファイドは毎週木曜5時更新。

第20回 ポエム・タウン

<成人の部>


作品  中尾照代


磨き上げた作品は
妙に光りすぎて
輝きのないものになっている

自己への失望に押されて
部屋を抜け 人を抜け 街を抜けて
野の方向へと急ぎ行く

幅広の野に風は舞い
木々はそよぎ
雑草はたわむれ
野花は微笑っている
飾り立てない楽しい饗宴
それらを見守るきれいな淡青の空
雲の群れも慎ましく優しく
手を広げている

自然は謙虚に向き合う者に
底深い生と静の輝きを伝える
そのあるがままの魅力に癒されて
作品の前に帰っていく

人に見せるためでなく
仕事の成果を得るためでもなく
ただ自分の魂の感動と望みを
表現するために作品に向かう

自然を見つめた時と同じ目を守りながら
完成を目指して緩やかに励む

満月にひとり  みちこ


月光
差し込む窓辺に
ひとり立つ
妙なる光を浴びながら
優しくなる

高窓より
見える満月は
やねの上
いく万人もの寝息を包む

満月に冴える
しじまにひとり
かすかな風に
春を待ちながら
宇宙の愛に溶けていく

人恋  若林道枝


暗くなると
彼らは水の底へ隠れる
そこはどんなところか
私は永久に
知らないまま
岩の陽光にまどろむ彼らと
すれ違う

どこかへ潜り込んで
どこへ?
毛布 波? 母?



お前は片目かと思った
と母がいつもいう
生まれてきた時片目をつむっていた
それでも可愛くて可愛くて
片目ゆえに余計可愛くて
おっぱいを飲むお前の顔を
片時も目を離さず見つめていた
渡された大事な大事な宝物に触るように
顔をなぞり またなぞった
二日目か三日目にぱっちっと音をたてて
両目を開いてかあさんを見たとき
あの時世界が音を立てて変わったよ
光という光が一度に点いた日

母の中に潜り込めるのなら
今潜り込めるなら
夕暮れよ
何時でもやってきたらいい

細胞  黒川彩歌


細胞が細胞を食べる
細胞は大きさを持つと
人間と言われた
自立起動式の細胞である
細胞は
あまいにがいかたいやわらかい
「見て、あんな真っ赤なトマトがあるわ」
真っ赤な中のぎっしり敷き詰められた細胞
「君の唇とってもチャーミング」
細胞は恐怖する
たべるすりつぶされるぎんみする
細胞が細胞を食べる
細胞は人間になることを願って
大きさを渇望する

コスモス  内 アリス


年のコスモスも終わりに近づいた
地面におしたをされて
最後の花を揺らしている
一年前
友はこう花に埋れてあの世へ発った

友の事を思い
話しかけた
そこはどんな所ですか
病魔の苦しみから逃れたそこは・・・
手を合わせた私
友は笑っていた

曲がった茎から咲いた
桃色の花は
懸命に何かを語ろうとしているのに
雲が足早に流れて—
今日は友の一周忌


選者のことば

今年は「ポエムタウン」、旧ポエムサロンから引き続き十六年目を迎えました。今や、日本の詩壇と肩を並べる存在となりました。
新聞、雑誌の詩の投稿欄は、わかりやすい詩をとりあげる兆候があります。「ポエムタウン」では難解な詩であったとしても、巧みな作品とあれば進んでとりあげています。それが『羅府詩壇』の使命だと心得ています。決意を新たにして、皆様と更に励みたいと思います。

『満月にひとり』みちこさん。「満月にひとり」の雰囲気が良く描かれています。ひとりの、隠された静かな心の高揚を感じとりました。二連目と三連目は素晴らしい表現です。宇宙の愛にひとりが溶けていくようです。

『人恋』若林道枝さん。よく整理されていて、これぞ現代詩と思わせる詩文です。二連目までが前半、三連目以降は後半の二部構成。前半と後半の対比が至妙です。結び(四連目)も巧みです。

『細胞』黒川彩歌さん。構成がしっかりとしています。展開も達者で、発想の意味もよくわかります。結びの一行「大きさ」の表現を変えてみてください。

『作品』中尾照代さん。自然と謙虚に対峙することによって、そのあるがままの魅力に癒されていきます。書き出しの二行目「妙」には、引きつける広がりがありません。結びの「緩やかに励む」が効いています。

『コスモス』内 アリスさん。情感ただよう作品です。まとまりすぎた感もありますが、コスモスと友をしのぶ綯交ぜの描写が、セピア色にひらめいていました。 

(新井雅之)



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