Whale Watching 2019

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第2回 ポエム・タウン

<成人の部>


銀のスプーン  フィッツジェラルド・ナヲ


美しい夢を
掬(すく)い続けるようにと
下さった小さな
銀のスプーン
だいそれた
夢ではなく
このスプーンに
ある程度の
ささやかな夢を
いつまでも
掬い続けるようにと…
私は現在(いま)
想い出を掬い続けている
此の世から
消えてしまった
あの人の…。

休止符のような影  安達遥子


夜がきて月がやっと厚い雲を
払うように顔を出した
公園の砂場に難破船のやうな
小さな靴がひとつ
近くのブランコがひっそりと
休止符のような影を落す
街は家も公園も諡(しず)まり
ときどき嘆息のやうな風が
想い出を追うように吹く
公園を囲む並木の影が
しだいに濃くなり
いつしか満ちたりた月が
皓々(こうこう)と照りはじめた
あの人のことを想いながら
夜を踏んで歩く
主の気紛れに付き合わされた犬と

聴こえない  シマダ・マサコ


白内障の手術のあと
こんなにも蒼かったのかと
空に見とれていた

補聴器を入れると
会話は聞こえるけれど
うるさい音も
入ってくる

だから家に戻ると
外してしまう

一瞬
潮が引くように
聴こえない

ふとんの中に
もぐった
ような安らぎ

それとも
母親の
子宮の中にいた頃の
安らぎかしら

いずれは訪れる安らぎが
わたしの肌に
もう触れている

百面相  みちこ


ビリー・ミリガンは
二四人の人格をもち
恐さで
寂しさで
悲しさで
絶望で
記憶と時間を失った

生きるため

人は「醜い」という人がいる
人は「美しい」という人もいる

私は
悲しい顔も(どうにもならないの)
嬉しい顔も(よかったわ)
楽しい顔も(ワーオ)
淋しい顔も(生きるってつらいなあ)
優しい顔も(そうなの)
ときに
悔しい顔も(どうしてッ)
持っている
苦々しい顔だって(わかってないなあ)
腹立たしい顔にしろ(バカにしてエ)
羨ましい顔(いいなあ)
地獄の顔さえ(死んじまえ!)
持っている

一人の中に
何十もの人格を
知らずに
ときに
意識して
出しては引っ込め
記憶に残しながら
生きている

柿の木  若林道枝


何度も引越しをした

どの家に帰ったらいいのだろう
何よりも肌のような家に
何よりもそよ風のような家に

20年も住んだふるさとの家は
もうない
高い柿の木があって
裏にお寺があって
近所の少年たちの
幼い同性愛を垣間見た
露地を入った廃品回収業の傾いた小屋や
その前にあったポンプの井戸
兄に恋したトシちゃんのいた家の塀 みんな消えて
あとには駐車場が知らぬ顔で広がっていた

何度も引越しをした

果樹園の古い家は売り主が出て行かない先に
あちこちに埃をたてて改造をしていた
子供たちの歓声や笑い声や泣き声や
年老いたシェパードは
大きな箱一杯の古いおもちゃといっしょに
片付けられた

湖のほとりの大きな家
デコレーション・ケーキのようなコンド
真新しい出来立ての家は不景気で
半分の価値になって
横着な女の子に貸して
家主になったが
犬にカーペットを荒らされ
手入れの悪い庭は
泣きたい位荒れ果てた

何度も引っ越をした

そして どの家に帰っていったらよいのか
どの家に私はまだいるのだろう

もう一度の引越しのその後にある家は
柔らかい肌のそよ風のような家

柿の木  若林道枝


WHITEではない
勿論
ANGLO SAXONでもない
PROTESTANTかと言えば
そうかもしれない

或る日WASP達が
何を血迷ったか
ショートカットの
髪に潜り込み
あっという間に
私の頭をボコボコにした

「黒のせいよ」
「黒を着てたんでしょう」

それは大和民族ですもの
私の頭は昔も今も黒です
自分の家の庭を
掘り返して

同じ住所に
WASPも棲むと
その時知ったのです

本当の君  つぶやいても良いですか?さん


気がつけば時は流れて
握った手からこぼれた夢とか希望
振り返りながら無神経な日常に
前を向いてるフリをする

強がらなくてもいいのに
完璧じゃなくても良いよ
いつだって僕はわかってる
君の中にある大切なもの

価値観 一般論 モラル
そんな難しい言葉で惑わされ
誰かの言葉に傷つき涙こぼしたり
自分で自分を責めてみたり
だけど忘れないで
君の中にある揺るぎなき君
僕が好きな君の輝き

今日何を着ようか、食べようか
真っ白なスケジュールを何で埋めようか
そういう事が大切で
形あるものだけが全て
それも悪くない
だけど忘れないで
よく口ずさんでいたあのメロディー
君の頬なでる風の優しさ

いっしょじゃなくていいんだよ
君は他の誰でもないんだから
いつだって僕は感じている
君の中にある大切なモノ

小さな窓から見える大きな空に
ありったけの願いを込めて
君へと贈る僕の言葉は
今日も君の頬なでる風の中

フェンシング  宇都湖畔


剣先がまっすぐ胸を突く
「サッ」と躱(かわ)して身を守る
見事な業に目を見張る

些細な出来事に
躱す術なく立ち向い
深く傷ついて
掌をじっと見つめている
朝が来て夜が来て
何事もなかったかのように
月日は流れていく

空虚な心に
フェンシングの剣が
時々「キラリ」と光る

目を閉じると  松本じゅん


いつも、ふとした時
あなたの無邪気な笑顔が浮かんでくる。

16歳で異国に来て、
言葉も分からず、
家族のいない異国で
頑張りとおした、60年間

目を閉じると浮かんでくる
朝から夜中まで仕事、仕事
自分の時間もなく ただひたすら人のため
家族のために生きたあなた

目を閉じると浮かんでくる
ほっかぶりをして
浮浪者にご飯をくばっているあなたの笑顔

目を閉じると浮かんでくる
あなたの困った顔
私が反抗期の頃、
警察に補導されたわたしを
迎えに来た時のあなたの顔が

台車を曳きながら始めた会社が
軌道にのると
毎日のようにプレゼント作りに
精をだしていたあなたの笑顔

目を閉じると浮かんでくる
痛みで苦しんでいるあなたが
病院のベットに 動かすことができないように手を縛られ、
点滴につながれ、足を切断し
苦しいのに、何一つ文句も言わず、
愚痴もこぼさず
痛みに耐えているあなたの顔が

目を閉じると浮かんでくる
骨壺にいれられたボロボロのあなたの骨を
もっと話したかった もっと一緒にいたかった
もっと聞きたかった

あなたは なぜそんなに強いのか
あなたは なぜ文句や愚痴を言わないのか
あなたは なぜそんなに人に優しいのか

あなたは幸せでしたかと
天国で聞けることを楽しみに待っています。


選者のことば

『銀のスプーン』フィッツジェラルド・ナヲさん。美しい詩です。夢を、思い出を掬(すく)うのに、銀のスプーンが、しめやかな調和を奏でているようです。

『休止符のような影』安達遥子さん。夜の風景と状況が良く描けています。最後の三行が、心憎いほど心に迫ってきます。

『聴こえない』シマダ・マサコさん。しっかりしたプロットです。特に四連目以降が見事な表白です。最終連は、はんなりとした美を感じました。

『百面相』みちこさん。深刻なモチーフの中に、諧謔の精神が生きいきと根づいています。最終連は身につまされました。

『柿の木』若林道枝さん。「どの家に帰ったらいいのだろう」と模索します。そして、最後の二連にたどり着く。「どの家に私はまだいるのだろう」、「柔らかい肌のそよ風のような家」。優れた表現です。

『WASP』石井志をんさん。どういう展開になるのであろうかと、興味をいだいて読みました。アイディアと感性がぶつかり合い、心象的な詩に仕上がっています。

『本当の君』つぶやいても良いですか?さん。作者の心情が切々と伝わってきました。最後の一行が効いています。たくさんの詩を書くことによって、優れた詩に出会います。期待しております。

『フェンシング』宇都湖畔さん。小気味よくまとめています。日々の心情をフェンシングの技と重ね合います。詩の結びも大変よく描いています。その調子を忘れないでください。

『目を閉じると』松本じゅんさん。淡々とよく描けています。語彙の選び方と推敲をすることによって、一段と秀でた詩に一転します。

(新井雅之)

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