Nikkan SAN

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日刊サンはロサンゼルスの日本語新聞です。 記事は毎日更新、求人、クラシファイドは毎週木曜5時更新。

第18回 ポエム・タウン

<成人の部>


涙の流れ方  若林道枝


あの時
一人空港からの帰り道
号泣が車いっぱいに満ちて
たぶん対向車の窓までふるわせたのか
それなのに
涙はほんの一滴しかこぼれなかった
鼻の脇で止まった涙は
熱く 塩辛く
ハイウエーI―5はぼつぼつ
ラッシュアワーの始まりだった

あの時
母は赤ん坊のように私を抱いて
揺すった
ただ揺すった
不合理を溶かすように
不条理を締め出すように
婚約者の汚さを洗い流すように
涙は顔一面に流れ
顎の先まで
流れた
あの時声も出なくて
ただ涙が大量にこぼれた

これからも何度怒りの涙を
甘えの涙を
悔しさと後悔の涙を
それから時には幸せの涙を
流すことになるのだろう

死ぬまで
死ぬまで

閃光  黒川彩歌


ああ 紅い あの線香のような光よ
いつもの このもんもんとした
熱い空気の最中
頭は老いていき 
知りもしない写真のあなたは只そっと
その赤い視線の中で揺れつづける
煙が辺りを支配して
いつしか僕は あなたみたいに
愚かになっていたのではないかと
自身を見失う
でも この揺れている気持ちを
手から放すことはできないだろう
今日も明後日も
未来も 永興も
長い永い旅の途中に
光の中で
あなたを見た
あなたは生きていたんだ、と
ほっと安堵するのだが
それもまた夢
度重なる 夏のような夢
そう 私は未来に帰る

うねり  シマダマサコ


悲しみは

不意に来る

街角に歩き慣れた
舗道に

もりあがり

もりあがる嗚咽の波に

呑まれ喘ぎ
瞳はかすみ

耐えよ耐えよ

うねりは
しばし

ひとこま  中尾照代


薄青の空の下に見える
しおれかけた花
その姿は寂しそう 辛そう
恥ずかしそうかと思って近づいてみたら
むしろ満ち足りた表情をしていた

好ましいこと 好ましくないこと
さまざまある中で
精一杯生きて
自分の生を全うしようとしている
澄んだ誇りを漂わせて

すべてに応じ 
すべてに動じない芯の強さと
健やかさ
現状に不満や煩い持って
揺れ動いているものに向けられる
静かな花の眼差し

目立たない色の小さな蝶が寄ってきて
花の回りを楽しく舞い始めた
密やかに生を閉じようとするものと
無心に生を継続するものとの
小さな触れ合いが
空の瞳を占領していた

地上の天使  山下さち


黒い瞳。
つややかな長い髪。
やさしい笑顔の
おだやかな女性。
ところが、
ところが、
彼女は強い意志を持ち、
弱い人を助けます。
困っている人に手をかします。
大きな権威をもちながら、
高ぶる所が一つもありません。


彼女が障害者を、
扱う時、
彼女の背から、
真白な、それは大きな、
翼が広がります。
彼女は、
地上の天使。
悪魔と戦う、
地上の天使。

乾いた町で  宇都湖畔


故郷の洪水のニュースを聞きながら
乾いた町をみつめている

ブロワーも水も禁止され
町がだんだん汚れていく
サイドウォークの木の葉の上に
誇りが積もり滑りそう

きれいな町 サンタモニカ
かつての看板も泣いている

思わせぶりな雨雲も
乾いた風に流されて
通り過ぎていった


選者のことば

今年の十一月は日系詩人、加川文一の詩碑建立十周年にあたります。詩碑はリトル東京の『ホンダプラザ』、セントラルとセカンドのコーナーにあります。詩碑の裏側には実行委員の名前と、英語の訳が刻まれています。
詩碑は、『ホンダプラザ』の一角に間借りしている状態と同じなので、『ホンダプラザ』が売却されることになると、詩碑の行方はどうなるかわかりません。
ロサンゼルス市の、歴史建立物に登録しようとの案があるのですが遅々として進みません。積極的に牽引してくれるリーダーがいないのが現状です。
万が一リトル東京に詩碑を失うことになれば、そのコミュニティの教養の質が問われます。署名活動をしてでも、加川文一の詩碑『海は光れり』は、彼の住まいのあったリトル東京に、永久(とこしえ)に遺しておきたいのです。皆様のご協力を切に仰ぎます。

『涙の流れ方』若林道枝さん。感覚の涙と現実の涙を表白しています。二連目は否定的でやるせない涙を回顧しています。状況が目に浮かぶようで良く描けています。三連目はもう少し創意が必要です。

『乾いた町で』宇都湖畔さん。故郷の洪水と乾いた町の対比が、巧みな表現となって活きています。「きれいな町、サンタモニカ かつての看板も泣いている」も光っていました。

『地上の天使』山下さちさん。一連目の「ところが、ところが」リフレインは不要です。結びの数行は推敲の余地があります。とても感触のいい詩だと思いました。

『ひとこま』中尾照代さん。「ひとこま」を濃縮して、穏やかに優しく詠い上げています。教科書に掲載したくなるような詩文です。書き出しの薄青は字面が悪いですから、淡青としたほうが落ち着きます。結びの二行がとても効いています。

『閃光』黒川彩歌さん。久方ぶりに現代詩たる現代詩を読んだ思いです。よく整理されていて、しかも展開が独創的です。あまり難解な詩ではありませんから、読者の心に残ります。

『うねり』シマダ マサコさん。いつものことですが、無駄な言葉が一切ありません。最初から八行目までは実に至妙です。最後の三行は、言葉を選んでください。

(新井雅之)

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