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ロサンゼルスの求人、クラシファイド、地元情報など

日刊サンはロサンゼルスの日本語新聞です。 記事は毎日更新、求人、クラシファイドは毎週木曜5時更新。

第15回 ポエム・タウン

<成人の部>


一才  内アリス


手でバランスをとり
はじめて大地を踏む
泳ぐように••••
ときめきと歓喜
オカッパが風に流れ
一点をみつめるひとみが揺れる
いっぽ
いっぽ
力づよい
いのちの重み
紅いくつが
鮮やかに前進する
明るい昼下り

片隅で  宇都湖畔


無雑作に置かれた庭の片隅で
けなげに咲いているサボテンの花

乾いた空気に埃が舞う
埃に負けまいとて
刺を一杯尖がらせて
刺の中からひょいと頭をもたげ
ひよこの羽毛のような可憐な花
私の心を捕えて離さない
雑音は全て刺にゆだねて
ただひたすら咲いている

花にみとれている中に
いつしか痼りも消えていた

母の背中  松村美津江


よいしょ! よいしょ!
心の応援歌か 貧しい母の叫び声
子宝に恵まれても
お金には 縁なし
子供の給食代支払う金を
よいしょ よいしょと
母は工面して子に渡す

箪笥の中は空っぽでも
“子供は宝だ”と芋粥を食べ
よいしょ よいしょと
戦後を戦ってきた

昭和二ケタの子供達は
もったいない心を親に教わり
よいしょ よいしょと
母の背中についてきた
いつも母は笑って 云っていた

“わしほど 幸せ者はおらん”
“わしほど 幸せ者はおらん”

大晦日  フィッジェラルド•ナヲ


何故か感傷的になり
カレンダーを見ていると
お別れですね後十分で
何処からともなく声
幻聴にしてはリアル過ぎる
辺りを見回しても誰も居ない
すると今あなたの見ている
カレンダーです
今年は色々な事が
ありましたね
来年の幸をお祈りします
さようなら
すーっと声が消えた
もっともっと
あなたの声を
聞いていたかったのに
声は行ってしまった
カレンダーを
私の手許に残して

それだけで  みちこ


風が吹く
ジャカランダが揺れる

そして
それを君は
美しいと思っている

きせつが変わり
柿の実がなる
日々色づいていく

そして
それを私は
新鮮だと思っている

それだけでいい

おかえり  あおい うしお


ここに過去はいません。
ただ、今がある。
それでも君は昨日の悲しみをおいて、
帰ってきてくれたんだね。

おかえり。

ここに未来はいません。
ただ、今がある。
それでも君は明日の不安をおいて、
帰ってきてくれたんだね。

おかえり。

ここには今日までのすべての君がいます。
明日から生まれるすべての君がいます。

ただいま。

その言葉をつぶやけるのは、
ただ、今しかないことを知った君が。

おかえり。

その言葉でむかえよう。
初めから、ずっとここにいた君を。

櫛  シマダマサコ


シルバーグレイに
変わっても豊かな髪の

色が褪せ細く切れて抜けて
白い枕に散るのを
彼は知らない

さあ顔を洗いましょう

セラピストに促されて
顔を拭い歯を磨き

櫛を渡されると
うっすらとほほえみ

髪は妻が梳いてくれる

それでも
ゆっくりと

ゆっくりと髪を梳き

梳いた櫛を見つめている
ひと房の髪の絡む櫛を

一瞬

瞳は宙をさまよい
ふと

息をつめて彼を見つめる
わたしの眼にあうと

うっすらとわらった

重荷  中尾照代


抱えている重荷を
「ヨイショ」と大地に置いてみた
「邪魔だから」と すぐにそれを強い風が
拾い上げて私の背に載せる

そこで今度は「ソーレ」と空に投げてみた
そうしたら遠くへ散っていくか
消えて行ってくれるのでは と期待して
しかし私の重荷は
空に浮くには重すぎたのか
すぐさまずしりと
私の胸に落ちてきた

しかたがない
それが生きている私の分であるならば
やはり自分で負っていくしかないか

明るい笑顔を見せている人も
元気な声を出す人も
堂々と歩き回っている人も
聞いてみればみんな重荷を負っている

自分には重荷があるが
他の人にもそれがあるんだ
と解っていることが大事で
重荷を負って生きている人と人とが
互いに労りあい 支えあっていくことで
大切なものを育んでいけるのか知れない

歩き回って汗ばんだ私の頬に
風が優しく手を触れる

眠る前に  若林道枝


ほんの少しの間
洗いたてシーツの
ほんの少しばかり紙の感覚がする
二枚の間では 
重さが放たれて
気球のように吐息が空に向かう
 
懐かしい景色
誰かが汚ごしてしまった景色
スカンディナビアの誰かがきちんと掃除した景色
曲がり角から故里が顔を出しそうな
手慣れていながら手が届かない
夢の中の言葉のように
誰も呟かない言葉が
喉から出る手前で
まあ、いいやと
丸めてしまいたい最後のように
空に向かう
 
 
どこかで父が少し大きく息を吸う音が聞こえた
お父さん
もうそこには
吐息だけの重さの
会話しかできない
あなたのいるところは
そこは暗いですか 明るいですか


選者のことば

『一才』内アリスさん。歩き始めた子を温かな目で描写しています。作者の優しさがにじみ出た作品に仕上がっています。結びの四行が素晴らしいです。

『片隅で』宇都湖畔さん。この詩も最後の四行が、タイトルである『片隅で』をいっそう際立たせています。

『母の背中』松村美津江さん。「よいしょ よいしょ」のリフレインが効いています。結びの一行は余分です。

『大晦日』フィツジェラルド・ナラさん。カレンダーが語りかけるところが面白いです。作者の願望なのでしょか。

『それだけで』みちこさん。「それだけでいい」が切なく伝わってきました。無駄な言葉が一つもない、味わい深い詩になっています。

『おかえり』あおい うしおさん。淡々と綴られる詩文に、まったく無駄がありません。読めば読むほどに、幻想と新たな発見に驚きました。その才能を生かしてこれからも詩を書き続けてください。秀逸です。

『櫛』シマダ マサコさん。書き出しの五行をもう少し整理したいです。結びの五行は良く描けています。

『重荷』中尾照代さん。最初の十一行が、実にうまく描けています。以後は、重荷を悟ってしまいます。清々しい結びとなっています。

『眠る前に』若林道枝さん。「眠る前に」を想像して読むと、幻影の世界に迷い込むような、不思議な感覚を覚えました。二連目は非常に良く書けています。結びは推敲をしてください。

(新井雅之)



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