Nikkan SAN

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日刊サンはロサンゼルスの日本語新聞です。 記事は毎日更新、求人、クラシファイドは毎週木曜5時更新。

第13回 ポエム・タウン

<成人の部>


日暮  中尾照代


日が暮れていく
空がゆっくりと暗くなっていく
淡墨の大気がすべてを包んでいく

難題を抱えて苦闘していた時には
気づかなかった
人との関わりに悩んで
そのことだけに気を取られていた時には
見とれる余裕もなかったけれど、、、
日暮れ時の何とも靜やかな
優しい風景

哀愁を帯びたその表情は
そこにあるそれぞれが
独自の存在であるゆえに感じる
孤独への澄んだ共鳴なのか
とにかくも一日を育んでくれた光が
去っていくことへの多くのものが覚える
惜別の控えめな代弁なのか

不安や重圧を含んだ夜の暗さにも
安定や包容を欠いた昼の明るさにも
見られない
日暮時特有の安らぎの色彩

侘しい人の心にそっと寄り添う温かさも

愛の誤算  平田ミチ


庭の植木が枯れてきた
愛をたくさんあげたのに
一人娘が家を出た
愛をたくさんあげたのに

庭の植木が生きづいた
ほうっておいたら生きづいた
一人娘が家に来た

ほうっておいたら会いに来た

人生の終点  山下さち


友人、知人
次々と死亡通知が
くるようになりました。

寂しい。
かなしい。
涙がこぼれます。
でもね、
今、隣にいる人を
幸せに。
笑顔あふれるように。
それが、
私の最後のつとめ。
そうですよね。
まちがって、
いないですよね。

四歳の記憶  古田和子


ああなんと大昔なのだろう
昭和十三年は一九三八年
まだ戦争の前

その昭和十三年の九月二十四日
秋季皇霊祭の日に
麻布材木町の森島写真館に
紋付姿で一家そろって
出かけていって写した
記念写真が見つかった

懐かしいお母さん三十一歳は
ふっくらとした若い顔
お祖父さん七十七歳
お祖母さん七十一歳
姉は九歳 私は四歳
この家族の中で今
生きているのは私だけ

お祖父さんは七十七歳で
この年の暮れに亡くなった
でも私は覚えている
私たち姉妹の誕生の記を
書き残してくれたお祖父さん

数え年四歳の私の頭の中に
切れ切れな記憶があったので
七十五年も前の家族が
私の本当に懐かしい家族が
短い切れ切れのフィルムに乗って
まわり続けている

崩壊  シマダ マサコ


眼の前で

崩れてゆく
音もなく

肉体のもろさ

かつて
頼もしく

すがった肩の

肉は
そげ落ちて

恋  古賀由美子


本当はこれが恋じゃないことくらい
重々知っている
でもひょんなことで彼を知ってから
毎日彼の姿をネットで追っている

ストーカー心理ではない
ファンレターを出す気もない
実際に会いたいとも思わない
しかし彼の生き様を知れば知るほど
知らず生きる力を与えられている

しがらみだらけの現実で
彼を想うとき
一滴の清浄な水を飲むような
すがすがしい気持ちになれる
日常生活を美しいものに変えてくれる

おかげでぐちゃぐちゃの
スクランブルエッグになっていても
私は穏やかな時間を取り戻すことができるのだ

出会いとは本当に偶然なのだろうか
私には生きるための必然に思えてならない

アメリカの山の中  石井志をん


もう新しくはならない
古くなって行くだけ
長く生きたなんて思わないのに
そろそろ準備をしなければいけないのに

旧い友達と逢った
デパートの最上階で食事をした

アメリカの山の中で買った服は
東京ではみすぼらしい

友達の服はまぶしすぎる
彼女は悪くない
本当の事を言ってるだけなのだ
とてもお歳には見えないが
中身は完全に歳なのだよと言われたとか
ガラス越しに
丸ビルと東京駅の裏側と
連なる線路を眺めて
松本清朝の点と線を思い出している

皇居の森を眺めながら
早く彼女の話が終わらないかと思っている

アメリカの山の中へ帰ってきた

新しい本に出会うと
なんていい本だろうと思う
新しく人に出会うと
なんて素敵な人だろうと思う
新しい一日がはじまると
なんてきれいな朝だろうと思う


選者のことば

この度の講評は、クラシック音楽を流して選に臨みました。日頃はジャズを聴くのですが、評するときにはクラシックの方がしっくりとなじみます。今回のCDは、デュオ高瀬のバイオリンとピアノの賛美曲。

投稿された詩の数々が、なごやかに玩読できるのです。今回も優れた作品が数多く集まりました。心嬉しい限りです。

『日暮』中尾照代さん。二連目「日暮れ時の何とも静やかな/優しい風景」。四連目「日暮時特有の安らぎの色彩」。この二つの情景と状況が伝わってきません。分かりやすく、優しく描出することも、テクニックの一つだと思います。

『愛の誤算』平田ミチさん。植木の愛と娘の愛。解説は不要です。ミチさんは、植木と一人娘に日頃から愛を注いでいます。自然と描けた微笑ましい詩です。

『人生の終点』山下さちさん。寂しさを紛らわすように、自問自答します。「人生の終点」が生き生きと描かれていました。

『四歳の記憶』吉田和子さん。全体としては推敲不足です。最終連は鮮明な記憶が甦って、「フィルムに乗ってまわり続けている」。結びかたが非常に素晴らしいです。

『崩壊』シマダ マサコさん。崩壊という重いテーマを、わずか数行で描写しています。秀作ですが最終連が弱いです。言葉を吟味することによって、益々優れた詩に導かれることでしょう。

『恋』古賀由美子さん。心の恋人に生きる力を与えられます。三連目から結びに至るまで、ときめきの躍動感があり問題提起もしています。

『アメリカの山の中』石井志をんさん。東京で旧い友達と逢い、友の話しは上の空。けれども、アメリカの山の中へ帰ってきて、新たな境地と出会います。最終連の文章には表現されていませんが、「アメリカの山の中が好き」と、理解して読ませていただきました。

(新井雅之)

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