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ロサンゼルスの求人、クラシファイド、地元情報など

日刊サンはロサンゼルスの日本語新聞です。 記事は毎日更新、求人、クラシファイドは毎週木曜5時更新。

ポエム・タウン

<成人の部>


鏡  平田ミチ


人は毎日、鏡をみる。
自らの存在を確かめる為に、
ある時は鏡の中の虚像に酔いしれ、
ある時は鏡の中の実像におびえ、
人は毎日、鏡をみる。
自らの存在を写しだす為に、
ある時は鏡の中の自分を意識し、
ある時は鏡の中の自分を拒絶し、
人は毎日、鏡をみる。
自らの存在を問いかける為に、
ある時は他人という鏡の中で自らの
時をもてあそび、
ある時は愛という鏡の中で自らの
人生を模索する。
人は毎日、鏡をみる。
もうひとりの自分とであう為に。

ある日  グレイス・ナカオ


音もなく入り込んできた冷風の一撃を受け
痛さに耐えかねて
座り込んで涙を流す
ややしばらく

立ち上がって外に出る
流れ出る涙をサングラスの中に隠して
道を歩く

鳥が飛んでいる
軽やかだ
花が咲いている
きれいだ
緑の葉がキラキラしている
爽やかだ
子供が遊んでいる
のどかだ
いつもと変わらない…

癒しと慰めは
身の回りに幾つもある
それを思う幸いが心に戻ると
涙がそっと身を引いた

近づいてきた陽の光が肩をやわらげ
しなやかな微風が頬をなでて行った
美しい春の日の午後

別れ  内アリス


ドアを押すと華やかに笑顔が咲いていた
少し露に濡れている花もあって
さわさわと風に揺れ
すぅっとこの空気を吸ったとき
私は風船になった
花々の間をふわふわとただよい
昨日までの時間は蝶のようにそれぞれの中で濃密でもあり淡白でもあって
風船の紐がからみこの花畑は別れがたい
折りからの突風に
私は花明りの並木通りに流されて
さよなら さようなら
手を振りながら花々は
何にごともなかったように咲き華やぐ

風に誘われただよいながら
過ぎた時とこれからの時の
印のない時のながれに身をまかせ
大空に弧を描く
ふんわり ふんわり不透明に
黙って耐えてきた日々の密やかな傷
傷の暗さをきちんと弁えて
穏やかに振る舞ってはいても
思いもかけず破綻をきたす痛みに
緑の蛍光ペンでアンダーラインを引き続けた日

風船になったあの日の優しい光りをあつめ
パレットに合わせてみよう
光りの暖かさを知って引き寄せられた日に
身籠った沢山の花々を

秋山さんの写真  若林道枝


顔だけで終わる人がいる
声だけで終わる人がいる
近頃では文字だけの付き合いもある
そら、メールだ FACE・BOOKだ と

秋山さんの声を
私は最後まで知らなかった
どんな話し方をするのか
どんな息の継ぎ方をするのか
高いのか掠れているのか

娘のような気がするといって
文通が始まったのは
どういう経緯だったか

娘というより恋人のように
なめるような手紙が届いて
何回も山ほど資料を送ってきた
初期のニューヨーク文芸の
きっと見る人がみたら
貴重な文書なのだろう

僕の写真をあげます
といって
近寄り難いような立派な紳士の
写真を送ってきた
私はきっと折り返し
自分の写真を送ったような気がする
もう憶えていない昔

便りが途絶えてから
何年も経って
彼が3年前に死んでいたことを知った
ひっそりと大陸の向こう側で

ウエブ・サイトの見覚えのある写真は
日本国政府からの勲章を掛け
やはり近寄り難い立派な紳士だった
何も語らなかった

翔べ  みちこ


翔べ
夫よ

重い脚もち
にせの背骨をせおい
夫よ翔ベ

芋虫のごとく
寝返りするのも
大儀な


夫よ
車椅子を捨て
悲しい眼を捨て
翔ぼう

コンドルの翼を
あなたに上げたい

聖域  石井志をん


冷えたワインは
グラスのステムを握って
透かして見る

向こう側には

こちらには
ひん曲がった顔の私

かつてここは
聖域だった
王族だけが踏んだ
ワイコロアの浜辺

ズボンをずり下げ
彼女を連れて
ひょろひょろ歩くのは誰

あのとき私は
あいつの腰に
とび蹴りを入れた
自分で稼いだ金で
おとといおいで

聖域は今
グラスの中

向こう側の海と
こちらの私の間で
冷えて
水滴を集めて
曇った
グラスの中


選者のことば

『鏡』平田ミチさん。女性が鏡に対峙したときの心情が綴られています。詩の後半部分が卓逸です。「他人という鏡の中で」、「愛という鏡の中で」。これらの一文が優れています。結びは推敲することにより、完成度の高い詩に生まれ変わります。


『ある日』グレイス・ナカオさん。一連目、二連目は、作者の心情が伝わってきました。四連目が非常にうまく書けています。もう少し風を入れた推敲が必要です。


『別れ』内 アリスさん。最初の一行が巧みです。「私は風船になった」、「私は花明りの」、「印のない」。これらのフーレーズが効果をもたらしています。みごとな出来栄えです。


『秋山さんの写真』若林道枝さん。最初の二行が読者を惹きつけます。「なめるような手紙が届いて」から状況が一変します。若林さん独特の詩の手法、コンシートです。


『翔べ』みちこさん。四連目と五連目は、作者の切実な思いが良く伝わってきました。夫をもっと鋭く観察して、素晴しい詩をたくさん作ってください。ご主人様の病気が、癒されますように祈ります。


『聖域』石井志をんさん。状況が目に浮かぶようです。五連目の回想部分を入れたことによって、詩全体が引き立ちます。その後に続く「聖域は今 グラスの中」は、会心の一文です。  (新井雅之)



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