来夏の映画観ようよ♪
vol.44 ジョーカー
2019-10-17
何度でも繰り返し観たくなる、中毒性の高い映画がある。個人的には、以前当コラムで紹介した“ダークナイト”もそのひとつであり、本作も既にその殿堂入りだ。
大都会ゴッサム・シティで母と共に暮らす、優しく善良な心の持ち主アーサー・フレック。いつも人々を笑顔にしたいと願い、ピエロに扮して閉店セールの宣伝や小児病棟を訪れる仕事をしていた。しかし、精神的な問題を抱えている上、笑いが止まらなくなる持病のせいもあり、ことごとく善意を撥ねつけられる。さらに、一生懸命働いているのに評価されず、むしろ頑張るほどドン底へと突き落とされていき、次第に彼の心は蝕まれていく。
ああ、転がるように堕ちていく、堕ちていく…ある意味、今まで観たどんなホラー映画より背筋がゾクゾクした。と同時に、この映画を公開して大丈夫なのか?とも感じた。それは決して、過激な内容に触発されて事件が起きるのでは、と軍や警察が敷いた警戒態勢に納得したわけではない。1999年に発生したコロンバイン高校銃乱射事件を基に、銃規制を訴え全米ライフル協会に突撃した映画“ボウリング・フォー・コロンバイン”の「やりすぎ感」に通ずるものがあり、つまり、ここまで社会問題―貧困から抜け出せない様や精神的な障害を持つ人への偏見、暴力をフィクションだと忘れさせるほど、リアルに深く切り込んだ描写が衝撃だったのだ。
なお、バットマンやジョーカーを知らなくとも心配いらない。あくまで、誰かから愛 され認められたかったのに叶わず、己の存在意義を探していた男がなぜ大衆の求めるアンチヒーローとなってしまったのかという話であるから。
公開前からいくつもの懸念があったが、幸い今のところ何も起きていない。アメコミ視点で考えれば間違いなくジョーカーの“負け”である。そして、声を大にして言うがこれは殺人者の礼賛物語ではない。観終えた後に高揚感を覚えるほど、ストーリーや音楽はもちろん主役のホアキン・フェニックスの演技が素晴らしい、映画史に残る名作だと。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。