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コラム

編集部
【来羅NOW! ライラナウ】土岐幹男さん と 土岐亜沙美さん @Los Angeles

2019-10-12

江戸凧師 日本の凧の会会員 江戸凧保存会会員 米国凧の会会員 凧工房ときオーナー
土岐幹男さん @Los Angeles



 現在、ロサンゼルス各地の学校で、日本の和紙・竹・糸を使った凧作り・凧あげ教室「Hitachi Japanese Kite Workshops」が開催され、自作の凧をあげる子供たちの笑顔が溢れている。

 子供たちを指導するのは、東京から来羅した江戸凧師の土岐幹男さんと江戸凧師アシスタントの亜沙美さん親子。

 このワークショップは、南カリフォルニア日米協会、日立、アラタニ・ファンデーションがロサンゼルスの学校に通う子供たちに、日本の凧作り・凧あげを通して日本と日本文化に触れてもらおうと、2001年から年に一度開催されている。

「Hitachi Japanese Kite Workshops」で凧作りの説明をする土岐幹男さん



 今年は14校の約1400人の子供たちが、土岐さん親子が日本から持ってきた材料を使い、日本の凧作りに初挑戦している。日本の伝統的な凧はさぞ難しいだろうと思いきや、子供たちが作るのは幹男さんが考案した一本の糸で“フッと”あがる新しいスタイルの凧だ。

 1時間半ほどかけて凧を作った後は必ず校庭に出て凧あげをする。「5分でも10分でもいいから、凧をあげてみないと、凧の楽しさが分からない」と幹男さんは話す。

 校庭での凧あげには、長年にわたり蓄積された江戸凧師の知識と経験が必要だ。

 「校庭で風が抜ける所があるので、そこにいくと凧はあがります。風を読まないとならない。歩いているうちに風が来てるなって見ると分かります。知識のある人があげれば凧はあがります。

 初めて凧を作った子がヒュッとあげてみたら『あ~~』って大歓声でビックスマイルになります」と話す幹男さんもビックスマイル。

サウスロサンゼルスにあるThe Accelerated Schoolで開催された「Hitachi Japanese Kite Workshops」。作った凧を掲げる笑顔の子供たちと指導した土岐幹男さん(後方中央)



 江戸凧は江戸時代(1603年〜1868年)に流行り、現代も全く変わらない作り方で製作されていて、日本国内では正月と5月の節句のおめでたい縁起物となっている。

 特に5月は家を継ぐ男の子が生まれた場合、初節句に五月人形を飾るように、凧も飾る風習がある。昔は祖父母や親が「無事に育つように」と願いを込めて、子供の名前や家紋を凧に書いて作った。または武将のように強い人になってほしいと、武将の絵が描かれた凧を凧屋に注文した。

 「これは日本の一つの文化です。海外のワークショップでは、なかなか話す時間がありませんが、子供たちが大人になって日本文化に触れた時に、子供の頃に作ったのは日本の凧だったのかって見てくれるんじゃないか、これがつながっていくかな…と思っています」。

 日本の伝統を日本国内だけでなく海外でも伝える幹男さんだが「伝統を伝えるって、なかなか難しい」と話す。

 「伝統はずっと続いてきたものなので、どこかで少しずつ新しくなっています。伝統をつなげながら、少しずつ新しくしていく。今の時代に合わなくなってきてしまうと“昔のもの”みたいになってきてしまうので、新しいものを作り、ある意味、ここから伝統を作っていく。

 新しい形の凧を作り、それを教えることで『日本の伝統の凧ってどんなんだったかな?』と見ることもあるだろうし、伝統がつながっていく」。

 昭和の時代までは東京でも凧屋が多く、凧あげもできたが、ビルが建てられると風が変わり、凧あげは難しくなった。そこで飾る凧が出てきた。

 もともと大きなサイズの凧には細部まで緻密に描かれたが、小さい凧は下から見て絵柄が見えるようにとシンプルな絵が描かれた。しかし現代では飾り用の小さい凧には細部も描かれている。

土岐幹男さんが製作した武将・上杉謙信



 1973年、江戸角凧に魅せられた幹男さんは、江戸角凧作り名人の太田勝久さんのもと、 組み立て式江戸角凧の製作を始めた。「どの職人もそうだったように、(太田さんは)『次に教えるから』と言って教えてくれなかった。何やってるのかなって見ると色々なことをやっていたので、見て覚えました」と、師匠の太田さんを振り返る。

 「そばの食べ方は教えてくれました。(太田さんは)粋な旦那なんでね。『そばはな、こうやって食うんだよ。ズルって音を最後の最後までいかないといけない。途中で切ったらおかしいぞ。切る場合は、こうやって切るんだよ』って」。

 現在、幹男さんの娘さんの亜沙美さんが、幹男さんの元で江戸凧師の修行をしている。

 「私は『こうやったらいいよ』って教えます。『見てろ』と言っても毎日作っているわけではないので分からないですよ。興味も持ってもらわないといけないから、凧あげも一緒に行きます」。

 亜沙美さんがあげられない凧も、父で師匠の幹男さんがあげると“ヒュン”とあがるそうだ。

 「なぜ、あがらないのか、自分で考えるんですよ。そこが大事。子供たちと同じで、凧が出来上がったから、あげに行きたい。でもあがらない。それでは面白くない。どうやったら凧が上がるのか?楽しさが分かると、もう一回作ろうかなってなるんですよ」。



江戸凧師アシスタント 凧工房ときアーティスト
土岐亜沙美さん @Los Angeles



 亜沙美さんにとって今年の「Hitachi Japanese Kite Workshops」は3回目。「初めて自分が作った凧が空にあがって『ハッピー!やったー!』って喜んでいる子供たちがすごく可愛いです。すごいパワーも使いますが、その分、とても楽しいです」と、子供たちへの指導に熱心だ。

 江戸凧の魅力について「父の絵とデザインが、すごく好きです。それと凧をあげた時のうなり*や江戸ならでは“隠れたオシャレ”があります。隠れたオシャレだけれど意味があるのが好きです。こちらからは言わないけれど、相手から尋ねられれたら話すみたいなのが江戸気質で面白いです。江戸の粋な文化が素敵で、かっこいいなって知ってもらいたいです」と話す。

 例えば、竹の骨を組む時は着物の襟の重ねと同じで右を下に左を上に組む。凧は縁起物なので、死装束の襟の重ねとは決して同じにしない。また竹の骨に細い和紙を巻くがデザイン的にも美しく機能的だ。絵の裏側に骨を貼り付ける時に糊がよくつくので持ちが良い。見えない所にオシャレだ。

 江戸凧師の父親の元で修行を続けているが、「今回のようなワークショップなどで江戸凧について伝えていけたらいいかなと思っています。それに加えて自分ももっと勉強して、父のように凧を作っていけれるレベルになっていきたいと思っています」と話す。

亜沙美さんが初めて全工程を一人で製作した凧。「だるま」の目にはロウを塗るという伝統的な技法が使われている。凧をあげると、だるまの目に光が通り、上から下を睨みつける迫力がある。凧は空にあげると違って見える



 「まだ自分で絵を描いたりデザインをしたりはできない」と話す亜沙美さんだが、色々と工夫して幹男さんとの初コラボ作品ができた。幹男さんが考案したセミ型とコウモリ型の折り紙凧を、亜沙美さんが染めた和紙で作り、棒の先に糸で取り付けたインドア・カイト。

 自分で振っても風があっても凧がすぐにあがるので2、3歳の子供でも遊ぶことができる。また和紙は光を通すと色が変わり、姿も愛らしい。

 「凧をミニチュアサイズにして、もう少しリーズナブルなどにして、自分の今できることからやっていけたらと思っています」と亜沙美さん。

親子で初コラボした「ふりふりカイト」2種類、セミ型とコウモリ型。棒の先についている糸は折り紙凧とつながっていて、棒を振るだけで凧あげを楽しめる



 この新作カイトを「ふりふりカイト」と命名したのは亜沙美さん。幹男さんは「私が名前をつけると古い感覚なんです。世代が違う。今、流行っている言葉が入ってくると、若い人たちも『え、何これ?』と興味を持ってくれます。インターネットにしても、若い考え方が入っていかないと伝統もつながっていきません」と、亜沙美さんの感性を歓迎している。

 ネット配信は亜沙美さんが担当しているそうで、江戸凧師、幹男さんの活動の場も拡大している。父と娘、異なった世代の二人が活躍する場は日本国内外だけでなく、ボーダレスのサイバー世界にも広がっている。今後の活躍と江戸凧の伝統の広がりが楽しみだ。

*うなり:角凧の上部に弓状のうなりを付けてあげるとブンブンと大きな音が出る。


(左から)土岐幹男さん、土岐亜沙美さん、ダグラス・アーバー南カリフォルニア日米協会プレジデント。後ろの作品は幹男さんが製作した「金太郎」「桜丸」、亜沙美さんが製作した「だるま」。前列は、飾り用の江戸角凧で幹男さんが製作した


父親、幹男さんの69歳の誕生日に、サプライズプレゼントした亜沙美さん製作の幹男さん奴凧。父親の特徴を強調した似顔絵に加え、刀の代わりに腰に指しているのは幹男さんが愛用する長唄の笛。「絵にエピソードを入れたら楽しいかなって、父のエピソードを入れたかったんです。父は写真を撮る時には、腕を組むポーズなので、このポーズにしました」と亜沙美さん。凧の絵柄にはその人物らしさが出るような背景やエピソードを描くのも伝統の一つ


=Tomomi Kanemaru

凧工房ときのホームページは、こちらから
https://kobo-toki.com


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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