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コラム

Los Angelesの顔
No. 81 宮川 英久さん

2019-05-18

コンセプトアーティスト



 ーコンセプトアーティスト、インダストリアルデザイナーを目指したきっかけは。

 ゲーム会社で3Dコンピュータグラフィックス(デザイン画を3DCGに起こす)を担当していましたが、次第にデザイン画自体を考える仕事に興味を持つようになりました。
 またカーデザインやプロダクトデザインなど産業に密接なデザインの世界にも興味があり、その世界で活躍する人たちの考え方を学びたいと強く思うようになったのがきっかけです。

 ーコンセプトアーティストについて。

 大きな物(映画、ゲーム、テーマパークなど)をチームで作る際に、チームメンバーに対して「これから、自分たちが作ろうとしているものがどのようなものか」という意匠を伝える役割がコンセプトアーティストです。
 ディレクターやチームの中核メンバーたちとの密接なコミュニケーションを元に、スケッチなどを作成するのが主な仕事です。プロジェクトの視覚的な意匠を一手に担う重要な仕事といえるかもしれません。

 ー幼少の頃、描いた絵は。

 幼稚園の頃、何故か飛行機の絵を描きたがって、幼稚園の備え付けの画用紙をほとんど自分一人で使い切ってしまい、先生に怒られたのを今でも覚えています。

 ー宮川さんのアートの特徴は。

 いわゆる現代的なデジタルアートの主流とは異なり、古典美術の雰囲気を活かし、新しい題材に取り組むことが特徴かもしれません。

「鷹匠像」(宮川英久さん作)

 ーどんなアーティストを目指しているか。

 これまでも世界規模のプロジェクトで中核となる仕事を任せていただく機会に恵まれましたが、これからもそれに甘んじることなく、世界的に発信されるプロジェクトに携わり続けていきたいです。
 一方で、生涯付き合える趣味としての絵という意味でも、絵をより深く突き詰めていきたいと思っています。その中で他の人々に絵の本当の面白さを伝えられたら、この上なく嬉しいです。

 ーこれまでのプロジェクトで一番楽しかったものは。

 一番楽しかったプロジェクトは間違いなくDisneyland Resort: Guardians of the Galaxy - Mission Breakout! (2017)です。

 これはディズニーランド・カリフォルニアにあるタワー・オブ・テラーをGuardians of the Galaxyをベースにした新アトラクションに生まれ変わらせるプロジェクトで、とてもありがたいことに重要なシネマティクス(動画)部分のコンセプトアートを全て担当させていただきました。

 プロジェクトの監督と密接にコミュニケーションを取りながら絵を仕上げたのですが、監督の創造性が非常に豊かでとてもユーモアに満ちていて、「どうお客様を楽しませるか」という点に主眼を置いて作業をしたことはとても有意義でした。

 ーでは、一番、難しかったプロジェクトは。

 Walt Disney Picturesの映画『A Wrinkle in Time(2018、邦題:五次元世界のぼうけん)』です。子供向けSFファンタジー小説を映画化しました。私にとっては初めての全世界で公開される長編映画の仕事でした。

 この映画のタイトルにもある“Wrinkle(小さなしわ)”の特殊効果を考える非常に大きな仕事を任され、度肝を抜かれてしまいました。
 作中で謎の女性“ミセス・ウィッチ”たちが空間を捻じ曲げる特殊能力を使い、現実世界と異世界を繋げます。この時、空間の歪みが発生するのですが、この視覚的な特殊効果を考えました。例えば、現実では熱で空間が歪んで見えたりしますが、特殊能力を使った場合はどう空間が歪んで見えるのか、ということを考えました。

 作品の「核」ともいえるとても重要な特殊効果なので、コンセプトアーティストとして出来る限り、数多くの演出アイディアを提供しなければなりませんでした。
 「抽象的な映像効果を考える」というとても挑戦的な題材は大変でしたが学ぶことも多く、これもとても有意義な経験でした。

 ー日本とアメリカで仕事をする中での違いは。

 アメリカのほうが個性を歓迎してくれる傾向にあるとは思います。
 しかし、プロジェクト毎の方向性というのはカッチリ決まっていて、プロジェクトに沿った絵を描くこと、会社のカラーに合う絵を描くことが求められます。
 そこで一度受け入れてもらえると、個人レベルでの個性を生かそうと考えてくれる傾向が強いと思います。

 ー尊敬しているアーティストは。

 あまりにも多くのアーティストを思いついてしまうので答えづらいですが、それでも挙げるとすれば、19世紀に活躍したロシア人画家のイリヤ・レーピンです。

 特に『トルコのスルタンへ手紙を書くザポロージャ・コサック』(1880年 – 1891年)という作品が大好きです。この作品に登場するとても表情豊かで特徴的な人々、「どこかにいるかもしない」とリアリティを感じさせる人々が、絵の中でそれぞれの感情を爆発させています。絵の技術もさることながらレーピンの「心」を捉える人間としての観察眼はとても素晴らしいです。そういった姿勢はコンセプトアーティストとしての自分自身にも必要不可欠だと、『トルコのー』を見るたびに認識させられます。


「嵐の夜に」(宮川英久さん作)

 ーアイディアが浮かぶ時は。

 感情が動く瞬間が創作意欲になることは多いと思います。
 厄介なことにのんびりできる時、リラックスしている瞬間に限って良いアイディアを思いついてしまうことがあります。そして、そのアイディアを形にした方がいいんじゃないかと…結局、気づくと休めていないことが割とあります。一種の職業病なのでしょうか…。

 ーより完成度の高い作品を制作するには。

 コンセプトアーティストはチームと連携することが重要です。またプロジェクトの視覚的な意匠を考えるという核たる役割なので、他のチームメンバーを待たせないように配慮しつつ、同時に質も求められます。
 このようなせめぎ合いの中での作業なので、効率的により速く作業することが肝要です。そうすることで各作品の完成度が高まるのではないでしょうか。

 ークライアントとのコミュニケーションで心がけていることは。

 当たり前のことですが、クライアントは絶対の存在で、彼らの意見に従うことが仕事の核の部分です。
 しかし、クライアントが絵やデザインに関して明るくないことも時々あります。

 このような場合、クライアントの意を汲みつつも、こちらがその分野のエキスパートとして提案したいことを、言葉ではなくそれとなく絵の中に組み込むなどしてみます。ほんの少しの「+α」をプロジェクトの妨げにならないように、クライアントに伝えられたらいいなと心がけています。


「アンティオキア港全景」(宮川英久さん作)

 ー今後のプロジェクトや方向性について。

 今年の年末に刊行される『Pictoria Volume.3』というオーストラリア発の美術書籍に、世界的に第一線で活躍するアーティストとして掲載されることになりました。さまざまな方面で、アーティストとして認知されてきたのかなと少し嬉しく思うと同時に、更に精進せねばと身の引き締まる思いです。

 また、インドネシアにこれから開園される世界規模のテーマパーク「MNC Land」のプロジェクトに携わりました。インドネシアのTVコンテンツをテーマに、さまざまなアトラクションのデザインをしたのですが、設計士の方たちとの密な話し合いの元での作業は一味違うものでした。
 デジタルな物とは違い、自分自身がデザインに携わったものが、実際に人々が触れるものとして形作られていくのが今からとても楽しみです。

 映画、ゲーム、テーマパーク問わず、世界的な規模の仕事をどんどん受けていけたらとても嬉しいです。それぞれの分野でしか得られない貴重な経験がありますから、それらを自身の将来的なコンセプトアーティストとしての力に変えていければ良いなと思っています。

◆宮川さんウェブサイト
www.artstation.com/supratio
www.supratio.com


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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