NikkanSAN_TopBanner_2023-05-07

ロサンゼルスの求人、クラシファイド、地元情報など

日刊サンはロサンゼルスの日本語新聞です。 記事は毎日更新、求人、クラシファイドは毎週木曜5時更新。

コラム

苦楽歳時記
vol143 論文と鮨

2015-04-16

 二〇〇八年の春に、僕は詩にまつわる論文を起稿したところであった。あと二年余りで脱稿する予定でいたが、事情があり引っ越しする羽目になってしまった。二〇〇六年あたりから、諸々のストレスがたまり、不意に病魔に襲われてしまった。

 引っ越しの荷物はそのままに、救急車で病院へ搬送されしまった。退院後、ストレージに堆(うずたか)く積み上げられたダンボール箱の山。

 僕はストロークの後遺症で、言語障害と右半身麻痺なってしまった。おまけに末期癌ときている。悪疾を患ってから粗方七年が経過するというのに、未だに蔵書はダンボール箱の中だ。未整理の蔵書は助手の助けが必要だ。文献をひもとかないと論考は書けないのである。

 僕はつと、弘法大師の願文が口からこぼれ出た。「哀しいかな、哀しいかな、また哀しいかな。悲しいかな、悲しいかな、重ねて悲しいかな」。

 僕のライフワークの一つである「近現代詩」にまつわる論文が未だに執筆できないのは、「悲しいかな」の一言に尽きる。

 大患に襲われる以前は、執筆に明け暮れた日々を過ごしていた。原稿の締め切りに追われて夜なべ続きの毎日であったが、これもまた楽しいのである。出版社が違えば編集者も異なる。そこには様々なやりとりがあった。

 僕が執筆するものはつたない雑文であるが、まれにコピーライターもどきの仕事と、著名人のゴーストライターも声をかけられたことがある。

 就寝と食事のとき以外は、ジャズを聴きながら机に向かっていた。それでも、たまには息抜きも必要であるから、馴染みの鮨屋で杯を重ねながら鮨をつまんだ。

 昨今の鮨屋は事情が好転したものである。築地の新鮮なネタを空輸で仕入れるらしい。新鮮な珍しいネタが豊富にあることは喜ばしい。更に廉価であれば嬉しい限りだ。

 僕の小論が脱稿するのは、いつのことになるのやら見当がつかない。ああ、哀しいかな、悲しいかな…


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
Facebook   Twieet

新井雅之

文芸誌、新聞、同人雑誌などに、詩、エッセイ、文芸評論、書評を寄稿。末期癌、ストロークの後遺症で闘病生活。総合芸術誌『ARTISTIC』元編集長。




[ 人気の記事 ]

第230回 碧い目が見た雅子妃の嘘と真

第249回 尻軽女はどこの国に多いか

特別インタビュー アシュラムセンター主幹牧師・榎本恵氏 後編

NITTO TIRE 水谷友重社長 ロングインタビュー① アメリカについてよく知ることが大切

第265回 天才と秀才、凡才の違い

第208回 日本と北部中国に多い下戸

第227回 グレンデールに抗議しよう

特別インタビュー アシュラムセンター主幹牧師・榎本恵氏 前編

第173回 あなたの顔の好みは?

NITTO TIRE 水谷友重社長 ロングインタビュー③ アメリカについてよく知ることが大切



最新のクラシファイド 定期購読
JFC International Inc Cosmos Grace 新撰組3月 Parexel pspinc ロサンゼルスのWEB制作(デザイン/開発/SEO)はSOTO-MEDIA 撃退コロナ音頭 サボテンブラザーズ 





ページトップへ