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コラム

苦楽歳時記
vol136 弁当と鮨屋ごっこ

2015-02-27

 僕は子供のころから料理をすることが好きであった。大病を患い右半身麻痺になったものだから、料理は一切しなくなった。

 二年ほど前に、僕はひらめいた。リハビリを兼ねて娘の弁当を作ろうと。片手だけしか使えないので、手の込んだ料理は作れないけれど、多分、娘が美味しいと言って食べてくれると思う。まれに、家人にも弁当を作って持たせる。

 健常なときによく作った料理は、サバの生鮨(きずし)である。関東ではしめサバという。新鮮なサバの頭を落として、内臓をとって三枚におろす。ピンセットなどで小骨をとりのぞき、塩をふってダシ昆布にはさんでひと晩ねかせる。翌日に塩を洗い流して割り酢にひたす。

 年末に若狭沖でとれるサバは最上であるが、ここはアメリカ、ノルウェー産のサバしか手に入らない。

 握り鮨もよく作った。キッチンのアイランドで家人と娘を前にして、鮨屋のマネごとをよくしたものだ。

 エビはハケで甘酢をぬると味が引き立つ。マグロのズケは醤油のなかに、酒と醤油麹を少々しのばせて、煮きり醤油を作る。イクラはダシ醤油に二晩ほどつける。

 玉(ぎょく)は最も仕込みに手間がかかった。ダシ昆布を一昼夜水につけておいて、その水を沸騰させて花かつおを入れる。酒、みりん、砂糖、塩少々と、とろとろの芝エビのすり身を流し込んで厚焼きたまごを作る。

 娘(客)が、僕(板前)に告げる。「涙、きかしておいてね」。涙とは板前の符牒でワサビのことである。「最後に鉄砲一丁」、娘がたのんだのはワサビ入りのかんぴょう巻のことだ。

 傍らで家人が「今日は、片思いはないのですか」。片思いとはアワビのことである。「本日のおすすめは焼きバッテラと涙(ワサビ)巻です」。こんなぐあいに鮨屋ごっこが続いた。とても楽しい昔日であった。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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新井雅之

文芸誌、新聞、同人雑誌などに、詩、エッセイ、文芸評論、書評を寄稿。末期癌、ストロークの後遺症で闘病生活。総合芸術誌『ARTISTIC』元編集長。




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