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コラム

苦楽歳時記
Vol32 フレッド・ヘイマンの思い出

2013-05-28

 リトル東京のサード・ストリート以南に、玩具の問屋街がある。更に南へ進むと、花、食品、アクセサリー、衣類、宝石等、あらゆる卸し業者が集まっている地域がある。

 スーツを購入するとき、その一角にある紳士服の問屋を、二十五年前から利用している。ある日、ジャケットを選んでいると、四十がらみの男性店員が僕の耳元で囁いた。「ビバリーヒルズのロドオ・ドライブに行くと、五千ドルで売っていますぜ」。

 この問屋の正札を見ると、二百五十ドル。縫製もしっかりとしているし、生地もデザインも気に入ったので、これを購入することに決めた。

 しばらく経って、ロデオ・ドライブの今は無き『フレッド・ヘイマン』を訪れたとき、問屋の店員の言葉を思い起こした。僕はジャケット売り場へ足を向けた。

 問屋で購入したのと、よく似たジャケットを見つけた。生地の質から縫製、デザインに至るまで同一のものだった。正札も五千ドル。違うところは内ポケットのラベルだけだ。「こんなことがあるのだ!」。僕は声を抑えて吃驚した。

 『フレッド・ヘイマン』の店内には、顧客にサーブできるように、丸い小さなバーカウンターがある。バーテンダーが作ってくれるオレンジ・カプチーノの味は、未だかつて出会ったことのない、まろやかで芳味な味わいだった。

 オーナーのフレッド・ヘイマン氏が、店内にいるときには直ぐにわかる。年代物の黒いロールスロイスを店の前に止めて、制服を着た運転手が十五分経過するたびに、パーキングメーターに二十五セント硬貨を一枚入れるのだ。この光景は、各メディアでも取り上げていた。

 日本から来られた四十歳半ばの夫人と、その女性秘書とを『フレッド・ヘイマン』に案内した際、この店がことのほか気に入られた様子なので、僕は六時間も待たされる羽目になってしまった。オレンジ・カプチーノを飲むこと三杯、ようやく御輿を上げてくれた。

 しばらくして、『フレッド・ヘイマン』から封書が届いた。封筒を開けてみると、三千ドルの小切手が同封してあった。往時の僕は旅行業を営んでいたので、あの時のコミションであったのだ。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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新井雅之

文芸誌、新聞、同人雑誌などに、詩、エッセイ、文芸評論、書評を寄稿。末期癌、ストロークの後遺症で闘病生活。総合芸術誌『ARTISTIC』元編集長。




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