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コラム

苦楽歳時記
vol.19 晩秋に食べる蕎麦の味

2012-11-14

拙宅の隣町に、佳味な手打ち蕎麦を食べさせてくれる店がある。

ざる蕎麦の薬味には、細かく刻んだネギとワサビが手塩皿にあるだけで、大根おろしやウズラの卵などは配されていない。その代わりに、つけ汁の中には刻んだ三つ葉と柚子の皮があしらわれてあり、つと、和国の風情を感受してしまう。
   
蕎麦には多くの品種があるらしいが、通常は夏蕎麦と秋蕎麦に大別されているようだ。歳時記によると「蕎麦の花」は、秋の季語となっている。出盛りの蕎麦粉をこねて作る旬の蕎麦は、アメリカに住みながらにして、日本の爽秋を味わえる一品なのである。
   
晩秋とはいえ年中温暖なロサンゼルスであるが、箸でつまみ上げた新蕎麦を、つけ汁に浸した瞬間から、清秋の旋律が仄めきだして、秋うららな故郷の錦絵が脳裏にたなびく。

やがて三つ葉の青い香りが鼻腔へと漂い、瑞々しい香りが脳内に吹聴されると、茹で上がったばかりの盛りの蕎麦が、つけ汁のなかで綯い交ぜになっているネギ、ワサビ、三つ葉と柚子のスパイスをはんなりと引き寄せる。

いよいよ芳しくもまったりとした舞踏の様な食感が、口の中に広がり始めると、喉越しの良い新蕎麦の風味に充足を覚える。
   
蕎麦つゆの濃淡にかかわらず、江戸っ子は蕎麦に、つけ汁を殆んどつけないで食べる。これは粋人が蕎麦を食べる際の流儀でもある。

「死ぬまでに一度でよいから、つけ汁に蕎麦をどっぷり浸して食べてみたい」。このような内容の江戸の川柳だか、何かがあったように思う。痩せ我慢することも、江戸っ子にとっては小粋な気風に通じるのであろう。
 
間もなく時刻は、午後一時になろうとしている。そろそろ昼時の人の波が引けるころあいである。これから蕎麦屋へ赴いて、秋の暮れをしみじみと味わいながら、ひとりで蕎麦をかみしめることにする。そして末尾に、ほっと一息ついて蕎麦湯をすすれば、僕の心は藹藹(あいあい)としてくるのである。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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新井雅之

文芸誌、新聞、同人雑誌などに、詩、エッセイ、文芸評論、書評を寄稿。末期癌、ストロークの後遺症で闘病生活。総合芸術誌『ARTISTIC』元編集長。




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